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オーストリアからのメール 

No.7 はじめてだった、ヨーロッパ(ロシア編)ひとり旅・滞在           

 19xx年7月1日(月)曇り後快晴

  旧レーニングラード 

 

     昨日は日本宛に絵葉書を出した。 

「19xx年6月30日(絵はがき)

朝、列車でモスクワからレーニングラードに到着。

午前中、キーラ嬢の案内で市内観光。日本語が抜群だ。

午後、エルミタージュ美術館、世界各国からの観光客で満たされた館内。

街中、日射しが強い。暑い。汗を掻きながらレーニングラードを全身で感 じ取ろうとしている。眩しい。

明日はフィンランド、ヘルシンキ、ひとり旅が始まる。

ダスビダーニア、ロシアよ、ニーナさん、そしてモスクワのイーナさん、 ロシア語と英語で喋ってみた。

再訪、再会したいものだ。忘れ得ぬロシア女性、スパシーバ」

 

 

 

■ヘルシンキへと早朝出発?

ヘルシンキへと早朝出発しなければならないと午前6時に起床。ヒロにとっては早朝過ぎた。 充分に睡眠が取れたとは思われない。

とにかく、午前7時半がヘルシンキ行き列車の発車時刻だと知らされたので、それに合わせて、 いつもと比べて結構早い起床であった。朝食も取らずの出発だった。

全員バスに乗って、レーニングラードの駅に向かっている筈であった。

駅らしい建物の前に停車。運転手さんはバスから降り、誰かを探しているようであった。 その間、列車の発車時刻が次第に迫ってくる。我々は相変わらずバスの中に居座ったまま。

バスの中では次第に「何をしているのか、このバカ!」といった焦りと怒りの不平不満の声で満たされてくる。

我がグループのリーダー、リーダーとしての責任を痛切に感じたのか、これは一大事だと判断したのか、 自分の席を立ち上がって行動開始。ここぞとばかり一人バスから弾き出て、 外でぼけっと突っ立っているバスの運転手の所へとつかつかと歩み寄って、 もう発車時刻が迫っているではないか、何をしているのか、(こ、このバカ!  と面と向かって言ったかは不明)といったようなことをロシア語会話帳を片手に何とか伝えようとしている。 我らがリーダーに代表して貰ったが、皆ロシア語が出来ず、話せず、伝えたいと思うことも伝えられず、 時間だけが過ぎていった。

この駅は、この駅は、ヘルシンキ行きの駅ではない! 

バスの中で待たされていた我々大半の見解であった。 ロシア人の運転手よりも外国人の日本人の方が事情を良く知っているとは、これ如何に? 

運転手はインツーリストの係員を捜しているらしい。フィンランドのラフテで途中下車することになっている、 我グループではただ一人“おっさん”とも言える人は非常な饒舌振りを発揮している。勿論、日本語で、だ。 誰に向かって言っているのだろう。

インツーリストの係員らしき男が我々のバスの中へと乗り込んで来た。バスは別の駅へと向かって漸く出発。

その別の駅に着いた。早く、早く! と係員は我々を急かせるようにして、列車の所へと走らせる。 我々は競走馬ではないのだ。観光客なのだ。が、時、既に遅し。列車は行ってしまった後であった。 我々は取り残された後でもあった。

予定していた列車に乗り遅れてしまったわけだ。早く起きて準備したのに! 

さて、これからどのような事態が始まろうとするのだろうか。

否定し得ない事実、列車は行ってしまった。我々は取り残されてしまった。

 

■振り出しに戻る

我々のバスは首を垂れて、ホテルへと戻る。一体全体、何がどうなってしまったのか。 荷物は降ろされ、我々もバスから荷物のごとく降ろされ、ホテルのロビーで待たされること、 待たされること。待機ともいう。

サービス・ビューローの女性係員がやっとやって来た。誰にということもなく説明を求める。 それでは、と今度はヒロが率先して英語で一応説明を試みたが、納得が行かなかったようである。 とにかく、朝食を取った後で、ゆっくりとこれからのことについて話し合いましょう。

次のヘルシンキ行き列車は夜の便しかないことは分かっているのである。 2階のセルフサービスのレストランでは忘れていた朝食を各自取ることになった。

ヘルシンキから着いたという、ブラジルの若者と向かい合って席に腰掛ける。 途中働きながら、ヨーロッパ中を旅してきたそうだ。

―コペンハーゲンではメッキのアルバイトをした、と。

―そこでの一ヶ月の部屋代40ドル同等額を、 このヨーロッパホテルに泊まるために払ってしまった、と。

―アイスランドの火山場には50名の日本人が働いていた、と。

朝食後、今度はインツーリストの日本課課長、キーラさんがやって来て、 あらためて事情聴取である。午後はバスで「夏宮」へ行くことに決まった。 最初雨が降っていたが晴れてきた。日が強くかっと照り出す。

自分の部屋に引き籠もり、昼食までの時間、日記を書いていた。 書き終えた後、そのままベッドに横になる。知らぬ間に寝入ってしまった。目を覚ましたのは、午後1時過ぎ。

しまった! 食事の時間になってしまっている。早く行かねば・・・・。 少々慌てながらエレベーターで5階へと向かった。ドアが開く。あれっ、誰もいないのかな。昼食は2階だったのかな?  記憶がはっきりしない。同じエレベーターで2階へと一人で戻ろうとすると、 もう一つのエレベーターからは他の人たちもどっと出て来た。結局は一緒に別の一隅のテーブルに腰を降ろし、 昼食を開始。食事は楽しかった。

 

 

 

■レーニングラード、最後の午後は「夏宮」で

午後2時5分過ぎ、 ヒロ一人遅れて、バスに乗り込む。合計5人だけの参加であった。キーラさんの案内。 彼女と向かい合うような具合にヒロは席を占める。勿論、一番前の席だ。

彼女はスカートのすそを気にしていないようでとても気にしているようだった。ちらっちらっと ヒロの顔色を窺っていることはその何げない視線から見て取ることが出来るのであった。

ミニスカートだ。共産国の若い女性もミニスカートを身に付けることが分かった次第だし、 裾を気にするということも分かった。 ヒロは別に気にしていなかったのだが、気にしているのは彼女の方であった。余りにも気にしているようなのでヒロの方ま で気にしだすようになってしまう。

バスの窓を通して、車内はとても強い日射しで満ちている。暑い。

沿道を人々が歩いているのが眺められるが、日に照らし出されて明るい。バスだけではない。 乗用車、市電も走っている道路だ。「夏宮」までは随分と距離があるようだ。

 キーラさんは運転手と専らロシア語で喋り合っている。一生懸命耳を傾けてみるが、殆ど、いや、 全然理解できない。何を喋っているのか、我は日本人、好奇心旺盛だ。

「夏宮」は素晴らしかった、と言っておこう。金メッキ(それとも本物の金だったのだろうか?)が キラキラと光を反射している噴水。我々は皆、庭園内、冗談を飛ばし合いながら散策した。各国の観光客達が目立つ。

ヒロはジーンズ風半ズボンを穿いていた。ベンチに腰掛けていたロシアの若い女の子二人、 その二人の前を通り掛ったヒロの、そんな姿を突然見出してか、笑い転げていた。何故だい?  共産国の女の子も笑うのか? 何がそんなに可笑しいのか? 

どうもブルージーン風半ズボンが珍しいらしい。それとも何処か変なのか。前方からこちらに向かって歩いて 来る人たちもヒロのそんな半ズボン姿を吟味しながら通過して行くのであった。これはヒロのオリジナルだ。 行ってしまった後、前からは誰もやってこないことを確認しつつ、別に股が涼しいとも感じなかったが、自分でも しっかり確認してみた。ちゃんと閉まっていた。

同じバスでホテルに戻る。

夕食。

夕食後、一つの部屋に集まって、午後10時出発までの時間を、食卓での話し合いの延長として、話し続ける。 話は、怖い怖い話を一人一人が語ることに終始した。怪談しながら会談だ。如何に聞き手に怖い思いをさせるか、 そんな話が一人一人の口から出てくるの であった。

 

 

 

■ヘルシンキへと、夜、出発

もう夜だ。バスに乗って、駅へと向かう。

発車前の列車の中、キーラさんと握手しながら、皆は彼女と別れた。明日の朝はヘルシンキに着いている筈である。

カナダ人の男一人が我々日本人だけで占めていたコンパートメントに入って来た。 別に日本人貸しきり専用ではなかったので、入ってきても文句を言うこともなかった。 このカナダ人、自分の方から話し出す。日本は良かった、と感想を述べる。 こんな狭い空間でまた日本人に会ったということで、日本人に対する親近感が湧いたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

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