「第65日」 19××年10月9日(月)晴れ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 秋田→ 大曲
秋田市内へと行く車の中で貰ったナシ一個、“なし”と言っても一個、幸いにも手元に有った。それを朝食と決めて食べる。 午前9時15分、階段下から明るい所へと出て来る。何となく頭が重い。 今日は秋田を去るのだ。 何時までも秋田に留まっていても仕方なし。でも秋田にはもう飽きた、などとは言うまい。勿論、住み心地の良いのも分かったし、また秋田弁にも耳が慣れてきたのは事実だ
でも旅を続けている身。同じ場所にいつまでも長く居座っているわけにもいかない。―― ぶつぶつと呟いている。 そこが本当に住むのに、そして活動するのに自分に適した所であるならば話しは別だが、そんな最適な場所が・・・住めば都などと言うけれど、 このぼくにとって、この日本という国のどこかにあるのだろうか。―― ぶつぶつと呟いていた。 今野さん宅近くの国道7号線まで歩いて行き、更にそれに沿って国道13号線へと分岐する箇所まで歩いて行った。
午前10時45分にはその分岐点に到達、15分後には大曲まであと50km地点という所まで来る。 歩いて旅をする、と決めたのだから歩いて行く。それはそうなのだが、それも場所によりけりだ、――この国道13号線に沿って歩きながらぶつぶつと思っている。 道路の両脇は田圃であったり、自動車営業所がひしめき合ったり、山になっている所等々、
沿道を歩きながら自動車が排出するガスを吸う役目を仰せつかっているかのような錯覚に陥りそうであった。 正午13分、大曲まであと44km。 正午20分、そろそろ御所野という所を通過しているのだろうかと思いながら、歩いている。 正午30分、前方にバンが止まり、何を思ったのか少しバックしてくる。その車の脇を構わず通ろうとすると窓から顔が出て来る。声も出て来る。 「何処まで行くの? 良かったら乗って行け」 乗せてもらうことにした。千葉県松戸から来たとのこと。お店が休みなので、一人で車に乗って東北地方をドライブに来た。これから大曲を通って家に帰る途中だとのこと。 昨日はあまり寝ていないので車を運転していると眠くて仕方ない、話し相手がいれば眠気も消えるだろうと思って止まった。そんな風に止まった理由を教えてくれた。 道路標識、大曲方面入口と書かれた所まで同乗させて貰う。 そこから大曲までは歩いて行く。 午後1時半、大曲に着いた。 新しい土地のベンチに腰を降ろす。背中に強い日差しを浴びながら食パンとビスケット一袋をせっせと食べる。 その間、ガイドブックを読むともなしに読む。この土地には何か特に見所と言えるものがあるのか、確認したかった。 時間がまだ充分あり、つまり夜になるまでにはまだ明るく、先へと行こうと思えば行けたのだが、今日は大曲で一泊しようと決めてしまった。 午後3時半過ぎまで同じベンチに座ったまま、尻が随分と暖まってしまった。別に観光したい気分ではなかった。
今日も一日が暮れようとしている。 いつの間にか、夕方になりつつあった。時の経つのが早い。今日の自分は何をしたのだろうか。 市内を歩き回りながら、今晩寝るのに適した場所はないかと探し、漸く見付けたと思った。 新築の家屋の玄関前であった。玄関前であろうが裏口であろうが、夜の帳が下りた中にあってはどこであっても変わりない、
就寝中に雨が降っても安心して雨宿りが出来るところであればそれで良い、そこが一晩だけの最適な安眠の場であると自分を納得させるだけであった。 午後5時、別に何もすることもなし、寝袋の中に横たわった。
|