2台目は牛乳運搬車であった。川崎まで行った。
「これから日本一周をするんですよ、今日、出発したんです。今、たった今、出発したばかりなんですよ」
自分が今やっていることに興奮を覚えて、じっとしていられない自分を抑制出来ないといった風であった。運転手さんの方は、しかし、落ち着いたもの。
車に乗せて頂いたことに対して感謝の気持ちを伝えようと、そんな積りで、自分の方から何をしているのか、何をしようとしているのか、自分から積極的に話し掛けているのであった。べらべらと夢中になって話すことで相手だけでなく自分をも安心させようとしていた。
自分は何者か、
これから何をして行かなければならないのか、
自分自身に向かって確認しているのでもあった。
朝食をまだ取っていないと言ったら、朝食代わりか、冷えた牛乳二本、飲ませて呉れた。
どういう車が遠くの方まで行くのか、色々と教えてくれた。が、ぼくは「ああ、そうですか」とまだ確信のない相槌を打っているだけであった。まだ、実感が湧かない。
ヒッチハイクの旅は今、始まったばかり。まだ地が足に、いや間違えた、足が地にちゃんと付いていないと言った感覚。車から降りる時、運転手さんは背後から「気をつけて!」と言ってくれた。嬉しかった。
そう、今、正に、日本一周の、ひとり旅がとうとう始まったのだ。日本全国、各地で何が待ち受けているものやら。
車に乗せて貰える。本当にそうなのだ。分かった。しかも無料だ。乗せる人と乗せてもらえる人との間、お互いに無言の了解が言わば成立しているのだ。そうと分って、気が楽になった。ようやく緊張が解けたようだった。
下車してからはずっと歩き続けた。歩いた。歩いた。歩くことも必要なのだ。
汗が出て来る、出て来るわ。それに背中のリュック荷物がやけに重い。本当に重い。両肩が痛む。腰にも負担を感じる。
我が足にもエンジンが掛かったし、旅は今、正に現在進行形、どんどんと先へ進んで行くことが当然ながら求められている。車に乗れない時には歩くことも吝かでないといった姿勢も求められているのだ。
沿道を歩きながら、ヒッチハイクの感覚とでも言うのか、要領とでもいうのか、段段と調子が出て来たようだ。ヒッチハイクについて自信みたいなものが湧いてきた。
4番目の車。交差点で信号待ち、一時停車中の車、自分の方から近寄って、
思い切り頼んだ。
「すいません!乗せて下さい!」
快諾してくれた。リュックサックを背負った姿を見て、何をやっているのかは分るのだろう。浦和まで行くのだそうだ。途中、何処かに寄って一人乗せ、その後東京都内を通過して浦和までやって来る。
下車した後、手元の地図を見たら、自分がこうだと予定していたコースから随分とかけ離れたところに来てしまっていた。
日本の夏、やはり暑い。
先ずは、浦和駅まで歩いて行こう、そこで一休みしよう。呼吸を整え気持ちを落ち着かせて再出発としよう。
そう自分に言い聞かせながら歩き続けていたが、暑いこと、暑いこと。日本の夏は暑い! 暑い!暑い!
汗が顔面から噴き出てくる、滝のように、いや、川のように、いや滝のように垂れ流れっ放しだ。拭おうとはしない。
途中、行きずりのおばさんに駅までの道を聞いた。
「青森まで自転車で行くという人に、つい先日会ったよ!」
嬉しそうだ。
汗を掻いたぼくの顔をしげしげと見ている。
「冷たいものあげようか?」 親切にも言ってくれた。
「汗がますます出て来るから・・・・」と断ってしまった。
どうにかこうにかして漸くヒッチ出来た車だった。この運転手さんの話によると、ちょっと冷やかしの積もりだったようだ。
「あの男(ぼくのこと!)、前の方で手を挙げてサインを送っているのか、それとも多分、頭でも掻いているのであろうか?」
そう思った、そうだ。それでも、おやおやと思いながらも気が付いて見たら、止まってしまっていた! と。
まあ、止まる理由などはこの際、どうでもいいや。乗せて貰えて、少しでも前進出来れば、良いのだから。