■鼻水を垂らしながらの起床
朝、寝袋の中、頭から全身包み込んで海老のように縮こまっていた。
寒かった、余りにも。
展望台の階段を駆け上がる足音。その騒々しさで目覚めてしまった。
階段を登って行った人たち、階段の下で、
誰かが一夜を明かしていたとは想像だに出来ないことだろう。午前8時20分だった。
疲れが取れるまでそのまま寝転がり続けていたかった。
が、同時に目覚まし時計が鳴り響き渡っているのを耳にしている時の、
あの気持ちになった。いつまでもこのままではいられない、
人も頻繁にやってくることだし、、、。格好悪い。
寝袋から出た。鼻水も出て来た。どうも風邪を引いたらしい。
■歩いて下って行く
身支度を整え、リュックを担ぎ、山道を下り始めた。午前9時20分だった。
道の両側、木々が覆い被さるようにトンネルを作っている。
道路は曲がりくねって下って行く。ぼくもそれに合わせるかのように曲がりくねって行く。
その間、車は前方、下から喘ぐかのように登って来るが、
ぼくと同じ方向へと下って行く車は皆無。ひたすら歩いて下る。
午前10時10分、ある温泉地を通過する。
その頃から背中の荷物が重く感じられ、もう一時間歩いたら休憩を取ろう、
と自分に言い聞かせながら、下って行った。
やっと川辺に下りて休憩だ。ガイドブックを見たところ、
吉川栄治の文学碑が今過ぎて来てしまった温泉にあるとのこと。残念ながら見落とした。
20分後、出発。道路の両脇は黄色く実った稲の畑が続く。
お百姓さん達が取り入れに精を出している。一生懸命仕事をしている。ぼくは傍観をしている。
時たま、車は通るが、乗せて行って貰おうという気持ちはない。
サインを出してもどうせ止まらないだろう、と思い込んでいるので、気楽に見送っている。
相変わらず歩いて下っていると、猛スピードで坂道を強引に登って行った車があった。
暫くして、今度は逆にその車、下って来る。ちょっと冷やかし気分、
どんなものかと試しに手を挙げてみたら、止まった! 何が起こるかわからない。
自分の思惑とは関係ないことが起こる。面白い。
この辺の道路には慣れているのだろう、上り坂に劣らず下り坂を結構なスピードで運転し、
途中の色々な温泉郷を通過、黒石(クロイシ)も通過、そしてある村で降ろされる。
午前11時15分からの、40分弱のドライブだった。
弘前(ヒロサキ)まで、あと10km。
■弘前へと近づいて行く
重い足取り。地図を広げながら現在地をちょっと調べたり、
腹が減ってきたので食パンを買ったりして、
道草を食うかのようにしながら弘前へと少しずつ歩を進めていた。
木材が大量に置いてあった道路脇下に降りて行った。
隠れるかのように腰を降ろす。買ったばかりのパンを食べる。
食ってからは、昨日充分に寝られなかった為か、それとも満腹感故にか、
何となく眠くなる。その木材の上に寝転がった。暫し、日に当りながら昼寝をする。
その間、時が流れた。2時間も!
長過ぎる昼寝になるとは思ってもいなかった。目を覚まし、起き上がってみれば、
「疲れたなあ」という感想だ。疲れていたから、寝不足だったから、昼寝をしたのに、
どうしてこんなに疲れるのだろうか。
「ますます疲れてしまった」 自分に向かって言っている。
30分程沿道を歩いた後、再び道路のコンクリートの上に
どっかりと腰を降ろす。車は殆ど通らない。今日は歩くのも疲れる。
目の前には畑、見渡す限りの畑、後方には岩木山が雲に被われ、
今にも雨が降り出しそう。津軽平野、秋の稲の取り入れが盛んだ。
案の定、降って来た。大粒の雨。直ぐに止んだ。さて、そろそろまた、歩こうか。
弘前まで、あと3km。
午後3時45分、再び雨が降り出し、近くの建設事務所の軒下で雨宿り。
止みそうもない。待ってもいられない。じれったい。レインコートを着込み、雨の中へと飛び込んで行った。
■弘前に着いていた
弘前市内に着いたころには漸く止む。駅の方へと向かったが、
途中で気が変わった。弘前の繁華街をぶらつき回り、デパート、マーケットなどで時間を潰した。
雨の中、午後6時前、弘前駅へと姿を現す。見渡してみたが、
寝るのに適当な場所が見当たらない。午後8時頃まで待合室で今日の書き物をしたり、
何かを食ったりしながら時間を潰していた。
他の場所で寝よう。心は決まった。
駅前の道路を何処か寝るのに適当な場所はないものかと探しながら歩き回る。
アパート建設現場にやって来た。外側の壁は殆ど出来あがっていた。
風は防げるようだ。誰が入居するのかは分からないが、その一の部屋で寝た。午後9時だった。
翌朝、思わぬことが起こるとは、、、、、、。