戸賀「秋田県」→男鹿「秋田県」   日本一周ひとり旅↑   秋田市内

「第62日」

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◆はじめてだった、日本一周ひとり旅 ◆

      19××年10月6日(金)曇り

         〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 男鹿 → 秋田

 

 

 

 ■朝食と自転車  
 

寒かった。とっくに目覚めていたが、二人が起床するのをじっと待っていた。二人が目覚めごそごそと起き上がるのを耳にし、 その音で自分も目覚めてしまい、いや目覚めたかのようにして一緒に起き上がった。午前7時20分、起床。

 

支度をすっかりと整え、出掛ける態勢に見えたのだろう、ぼくに訊いて来る。

 

「もう出掛けるのですか?」
 

「いや、まだ行かない」
 

「御飯、腹一杯食べさせてあげますよ」
 

「本当ですか」
 

ちょっと半信半疑であった。が、食べられると聞いて本当の話し、助かったという思いであった。

朝食の用意は彼ら二人が全部やり、ぼくは出来上がるのを脇で今か今かと待っているだけであった。一緒に食べられるというので何故か途端に雄弁になる。

こうである。

昨日、半島を相当苦労しながら歩いた。疲れながら、足の甲に痛みを感じながら、歩いてきたことがまだ頭の中に鮮明な映像としてある。それだから彼ら二人が自転車で旅をしていることに対して羨ましさを感ぜざるを得なかった。

重い荷物を担ぐ必要もなく、同じ時間を使うとしても歩くよりもより遠くへと移動出来る。また歩いて訪れるにも時間が掛かる大変な所へも自転車では簡単に行けてしまう。
 

歩く苦労やら苦痛を味わうことないだろう。自転車による旅の良さをぼくなりに要約しているのであった。
 

徒歩の旅と自転車による旅、この二つを比較すると断然後者の方が良いように思えてきてしまった。 

ああ、自転車で旅をしてみたい!

二人と話していると、そんな気持ちが押さえられなくなってくる。

「いいなあ、いいなあ」

羨ましさを連発しているのであった。

更に彼ら二人は自炊をやっている。熱いもの、温かいもの、野菜、米、味噌汁と、小規模ではあるが、兎に角料理する道具が揃っていて好きな時に、好きなだけ食べようと思えば、何処にあったとしても食べられる。こんな素晴らしい旅の仕方、彼らは結局、何から何まで自分の力でやろうとしている。いや、やっている。

思えば彼らの旅の仕方はそのまま彼ら達の生活、人生の一幕ということであろうが、こんな風な暮らし方こそ――そういえば、北海道の帯広のテントの中に誰でも好きなことが書けるようにしてあったノート、誰が備えたのか、雑記帳のことが思い出される。ノートの一ページ目に、ある女性の覚書があったが、同じような趣旨のことを記していた―― 自分の求めていた生き方(今思えば、人生の過程での一時期と捉えられるのだが)ではなかったのかとも思わた。
 

彼ら二人が既に先駆けてそうしていることにバスに乗り遅れてはならじと、いやバスではなく自転車だ、自分も早くそうしたい、そうしなければ・・・・・と、気も焦るのであった。

自転車、自炊、何でも自分でやる、いいなあ、いいなあ。

 

食費を切り詰めながら、旅の終了を出来るだけ遠く、明日へ明日へと先延ばしするために細々く旅を続けようとして自分の姿とはまるっきり違う。彼ら達のそんな姿を目の当たりにして、今までの自分の旅の仕方に何だか嫌気が射して来た。
 

いや、そんな風には考えたくはない。自分にだったそうしたい意思は充分ある。ただ用具を揃えて実現させるだけの資金が手元に今はないということだけだ。

「資金? それもアルバイトをすれば得られるのさ」

一人が教えてくれる。
 

「職安、キャンプ場で聞いてみると良いですよ」

二人目が更にヒントを与えてくれる。

どこか働ける所、ないだろうか? ぼくは早々、職探しを始めようと心に決めていた。

それにしてゆっくりとした、誠に長い朝食時間だった。
 

我々三人で食べている間、通勤人や学生達などが横目で 不審そうな視線を送りながら通り過ぎて行った。しかし、我々は全然気にしない。人目など全然気にしない、気にしないのだ。わが道を行く。
 

寧ろ内心ちょっと得意がっていたと言っても良いかも知れない。

俺たちは生きる世界が違う。



中位いの鍋の中で炊いていた御飯が出来上がり、別に温めていた即席カレーそばをご飯に混ぜて朝食の出来上がりだ。食後にはコーヒーを3杯飲む。

約束通り、腹一杯食べさせて貰った。腹一杯食べられる幸せを感じたのも久し振りだ。だからこうした旅が止められない。尤も、腹一杯食べられた時には、その都度そんな満足感に浸っていた。




■昼前に出発 

午前11時ちょうど、ぼくは礼を言って先に出発した。勿論、徒歩だ。

自転車組みはぼくを直ぐに追い抜き、たちまち見えなくなった。自転車だったら午後2時頃には秋田に着いてしまうだろう。
 

ぼくとしては今日もこの足で歩いて、今日辿り付ける所まで、まあ追分と秋田との間の何処か、その辺までだろうか。?
 

歩きやすいように半ズボンであった。彼ら達の自転車に追い付き追い抜こうとするかのように駆け足同然の足取りで歩いた。出発してから3時間、歩きっぱなしの約18kmだった。

35分間の休憩の後、この調子だと午後6時頃までには秋田に着けるだろうか。

 

痛む左足を気にしながらもどんどんと歩み進んで行く。15分後、前方に車が一台停車中だ。その脇を通ろうとすると、窓から顔がひょいと出てきた。

「乗って行かないかい?」
 

飽くまでも歩きの旅を続けている自分であると考えていたが、せっかくの申し出、乗って行かなければ悪いように思われたので、有り難く乗せて貰った。午後2時50分からの、約25分間。






■秋田市内にやって来た

 

千秋(せんしゅう)公園に向って歩いて行った。
 

秋田市街地図を上下逆に見ていたため、国道7号線を行ったり来たり、往復2回も馬鹿な真似をやる。その辺を何となくグルグルと回った後、そのまま秋田駅に向った。

 

午後4時55分、秋田駅に着いた。案外大きな駅だ。
 

今朝の自転車旅行二人組みは、千秋公園のどこかにいると思って見回ってみたが出会えず、それならば駅のどこかその辺にいるだろうと端から端まで探して再会を期したが見当たらず、諦めて駅の待合室で一休止。
 

小休止の積りが、何時の間にか尻から根が生えて来てしまったのかの如く、そのままずっと腰掛けていた。旅日記を忘れないようにと綴っていた。

ここの待合室も夜中近くには閉まってしまうんだよなあ。

 

午後8時、駅を出た。


 

暗い。

寝るのに適当な所を駅前道路を右往左往、縦に横にと歩き回るが、どうも駄目だ。
  



  

■美術館の縁の下
 

公園に行ってみよう。ベンチの上ででも、と思って来て見ると余りにも開けっぴろげすぎる。人の目に触れる。一人になるとやはり人目が気になる自分なのだ。

 

別の場所を探しているうちに、美術館の縁の下で寝ることに決めた。

頭を少し低くして、中腰気味で縁の下へと入って行く。何となく薄汚れた場所であると感じた。大きな石がごろごろと無造作に置かれている。蜘蛛の巣が髪の毛にこびりつく。

寝るのに最適な場所とは言えない。が、贅沢も言えない。人目を避けるには、まあ、ここで充分だろう。まさか、縁の下に人が休んでいるなどと普通の人は考えないだろう。そんなことを考えるのはぼく一人だけでよい。普通でないぼくかもしれないが、睡眠妨害が入るのを避ける意味でもここは恰好の場所だ。上手い具合に見つけた。ちょっとだけ自分を褒めていた。
 

 寝入るために横になった時、既に午後9時を過ぎていた。

宿泊先も確保出来たし、今日も一日が終わった。

 

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