大曲→角館 日本一周ひとり旅↑ 田沢湖畔  
「第67日」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

■はじめてだった、日本一周ひとり旅■

           19××年10月11日(水)曇り時々雨

     〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  角館→ 田沢湖畔 






国道46号線、午前6時頃から車が行き交い始める。静かに眠っていられたのに、それら車からの雑音の所為で完全に目醒めてしまった。 気が済むまで寝ていたいのが本音だが、醒めてしまえば、もう寝入ることも出来ない。そのまま起き上がってしまった。午前6時46分、起床。

起き上がってしまえば、次は朝食となる。食パンにバターを塗る代わりにマヨネーズを塗って食べてみた。これがまた結構行ける。よく話しには聞いていたのだが、実際そうやって食べてみると美味い。ソーセージ1本も簡単に片付いてしまった。

自分ひとりを相手に食べるので朝食時間も直ぐに終えてしまった。 




 

■賭け   

昨晩からずっと思い続けていた、実現出来るかどうか。

今日は一つ賭けに出る。

 一軒目、駄目。

 二軒目、駄目。


 三軒目。

「あの〜、すいません、今、日本一周の旅をしているのですが、どこかに不要の古自転車は有りませんか?」

 

「何? 日本一周? 何処から来た?」

 

「神奈川です」

 

「自転車が欲しいのか?」

「今まで歩いたりしてやっていたのですが、自転車で回りたいのです」
  御主人はちょっと考えている。

「息子が大きくなって、今は東京で働いている。息子が使っていた自転車があるが、ちょっとガタが来ている、それでも良いいなら、、、、」

「ええどんなものでもいいです、乗れれば」

埃の被った、本来の所有者に如何にも見放されてしまったようなみすぼらしい自転車が引き出されて来た。タイヤは擦り切れている。つるんつるんだ。

「いいんですか?」

「いいよ。持って行け。頑張って」

「ええ、どうも有り難うございます」








 

■自転車での旅、開始!
  

午前8時、出発。自転車による旅が始まったのだ。

やはり自転車は歩くよりも断然速い。当たり前だが、スムーズに先へ進んで行く。何とも言えない爽快な気分だ。

でも荷物がもう一つ増えてしまったと思われないこともない。身軽に行動出来ていたのに、”荷物”一つの為に行動が制約されるのではないのか。自転車による旅 を開始したばかりなのに早々、もう心配している。

結局、それぞれの旅の仕方にはそれぞれ長所もあれば短所もあるということだろう。良い点だけが強烈に目に写るからそれに跳び付きたくなる。が、一旦飛び付くとそれに付随するものも一緒になって付いて来る。長所短所が次第に見えてくる。






 

■ 再会
   

午前9時半頃だろうか、道路の反対側、前方から自転車に乗って下ってくる人、よくよく見ると先日の栃木の人ではないか!  こんな所で再会するとは、こちらも驚いたがあちらも驚いた様子だ。田沢湖で二泊してきたそうで、今日は角館まで行く、と。

「田沢湖畔の何処か、野宿出来る所ありますか?」

「あるよ」

過去二日間は秋晴れ続き、休日も重なって人出も多かったらしい。皆、 田沢湖へは紅葉を見に来るのである。しかし、今日の天気、朝から晴れ間が見られず、今にも雨が降りそうだ。

 

再会の記念写真撮影をした後、別れる。

「じゃあ、頑張って」

じゃあ」

「また何処かで会えるだろう、、、」とお互いに言い合いながら、、 ぼくは急に思い出し、もう一人の相棒の消息も聞きたくなった。

 「あっ、そうだ、ねえもう一人の相棒はどうしたの?」

「別れた」

「別れた?」

自炊の道具が買えたので再び自らの道を行くことにしたのだそうだ。 岡山の人も日本一周を企て、今その実行を積み重ねている。冬の時期も家に帰ることなく続けるのだそうだ。

寒くないだろうか? 寒さをどう防ぐのだろうか? 気懸りな点はそれだけ。それさえ解決できればぼくも多分出来ると思うのだが、、、。 カイロ持参かな? それとも寒過ぎて帰ろうかな?








 

■ バス停での雨宿りは、、、
  

 田沢湖まであと6kmぐらいの地点当りから雨が降り出し、今にも止むだろうと思いそのまま走り続けるが、次第に強く降って来るばかり。 目的地2km手前ぐらいのバス停小屋に暫し雨宿りする。

雨が止んだのを見届けてから出発。ちょっと気になったこと、バス停小屋の中は小粒のガラスの破片が沢山あったのを知らずに、その上をタイヤが踏んでしまった。


田沢湖に到着したと同時にパーンという高らかな音と共にパンク。 やはり恐れていたことが起こった!  起こってしまった!尤もタイヤがつるつるに擦り切れていたことも原因であったかも知れない。タイヤの擦り切れた個所は開き、中のチューブがその肌の一部を卑猥そうに 顕わに見せているかのようでもあった。







 

■ 田沢湖畔、野宿先での憂鬱
   

栃木の人が言うが如く、野宿出来る所が3ヶ所見つかった。ある旅館の前、野宿できそうな候補その一に自転車ごと乗り入れる。

実はここにやってきて一時休憩を取ることが出来たが、ここにやってくるまでの道程では心の中が憂鬱であった。”お荷物”が本当にもう一つ増えてしまったと思われて仕方なかった。パンクしてしまった自転車。

ベンチの上に仰向けに寝転がって、この自転車どうしようかと考えながらも疲れていたのだろうか、寝入ってしまっていたかのようなうっすらと目覚めてしまっていたかのような、何とも言えない意識の中を悩みながら漂っていた。 ふと我に帰った。風が少し冷たい。湖の方から吹いてくる。やけに冷たく感じる。


この身の置き場を別の所へと変えてみた。床に誰かが自炊したような痕跡が残っている。ピーンと来た。あの栃木の人だ。今朝、ここで朝食を、この場所で作って食べたのだ。と言うことは昨晩この場所で野宿したということだ。今晩はぼくも彼に続いて同じ場所で寝ることになるのだろう。

 

昼前には田沢湖に着いていた。その湖畔の、その場所から離れることもなく、それからはずっとそこに居座っていた。午後3時頃から、寒さも何となく加わって、薄く暗くもなってきた。全く静かである。

ちょっと見回しても湖上で遊ぶ人の影は見えず、遊覧船のアナウンスはやたらとはっきりとこちらの方まで聞えてくる。道路も車、人と余り通らず、ぼく一人 がその場に置き忘れられてしまったような気持ちになる。風のいたずらか、木々の葉がざわめく。湖の色もどんよりとしていて人を寄せ付けない。

道路を挟んで向う側には旅館があるのだが、手拍子に合わせて聞えてくるではないか。

ドンドンパンパン、ドンパンパ。

笑い声がそれに遅れて聞えてくる。女の人のそれだ。宴会か、目下進行中なのだろう。中で は派手にやっているのだろう。

 

ドンドンパンパン、ドンパンパ。

耳にしたくないと思っても聞こえてくる。

ここ、外では余りにも閑寂なので気が滅入ってしまいそうだ。気味が悪いほど静か。気でも狂うのではないかと自分で自分が恐ろしくなる。

誰か!誰かいないのか?

叫び出したくなりそうだ。どうしてこんなに静かなのだろう?

休日明けの翌日である今日、曇り空で湖の向う側は山で霧に包まれている。でも昨日は秋晴れで人出も大勢だった。昨日の喧騒と今日の静寂。 その対照が余りにもあんまりなのだ。

それはそうと、どうしようか、このボロ自転車。パンクをなおして自転車旅行を続けようか。それとも”お荷物”の自転車と手を切って、片付けて、再び身を軽くして旅を続けようか。

どうしよう?

 まあ、明日になれば何とかなるだろう。明日になればどうするか、決まるだろう。今日はもう考えるのは止めよう。

 明日への期待。不調な日だってある。今日はどうも不調な日となっているのだろう。天候もこのように良くないし、じっと耐えて明るい日の来るのを待とう。しかし、こういう気持ちに陥っている自分に嫌気が募る。徹底的に嫌になる。こんな自分と一緒に旅を続けることに楽しい訳 がない。







 

■ 旅の女の子二人
   

午後5時前、東京品川からやって来たという旅の女の子、二人が近寄ってきて、「写真撮って下さいませんか」、と。ぼくにとっては暫し意識の転換となった。

「はいはい、分かりました」                                                               

ぼくはのっそりと立ち上がった。


「それでは良いですか、チーズ!」

今晩は民宿に泊り、明日はもう東京に帰る予定だそうだ。仕事が明後日から待っている。

しかし、この自転車、只で貰ったのは良かったのだが、何だか厄介ものになってしまった。お荷物になってしまった。パンクした自転車なんて使えやしない。どうしよう? いや、もう考えるのはよそう。明日になったら考えよう。今日はもう考えるのは止めよう。そう自分に言い聞かせた筈だ った。




午後6時頃、既に周りの世界は真っ暗。旅館からは光が漏れてくる。 それがやけに明るく、目に染みる。宴会は終わったらしい。ぼくはその旅館に今晩の宿を取ったわけではない。

 

さてと、一人寝の寝袋に入って寝るとするか。


憂鬱な気分に浸っている。人はこれをスランプと言うのか。

明日の朝になるのを待とう。

 

明日になれば心の中も晴れているだろう。

 

大曲→角館   日本一周ひとり旅↑  田沢湖畔  

日本最大級ショッピングサイト!お買い物なら楽天市場