角館→田沢湖畔  日本一周ひとり旅↑ 田沢湖→盛岡 

第68日」

       19xx年10月12日(木)曇り

      〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  田沢湖畔 


   

■この朝の薄ら寒さ!  

長い夜が明けようとしていた。寝袋の中に頭から全身すっぽりと包まっていたが、それでも寒い。

午前6時半、とうとう一度起き上がってしまった。長らく「ああ、自然が呼んでいる」と感じていたのだが、寒いし出来ることならば延期したいと我慢していたが、我慢も限界に達し、寝袋から這い出し、文字通りブルブルと震えながら湖辺へと歩いて行く。 何とも無防備な心持ち。忘れないうちに用を足し暫くしてからまた元の寝袋の中に納まる。

寝袋の中、何故か聴覚が敏感になっている。腹の調子も少し変だったためか目覚めてしまってもいる。

湖上のザッザッザッー、引切り無しに聞こえて来る。舟が出ているのだろうかと思っていたが、何時まで経っても止まない。気にしだすと止められない。耳障りな音だ。寝入れない。それに体全体に相変わらず寒さを感じる。

どうも何かがおかしい。何がおこっているのだろう? もう一度上半身だけ起き上がって見るともなしに見遣る。 湖の方から少々激しく風が吹き込んで来ていたのだ。

湖上の空模様、今にも雨がザザッーと来そうだ。ああ、早く出よう。早くここを出よう! こんな所に留まっていると気分が益々滅入ってしまう。こんな 場所からは早く離れよう!




■風邪を引いたか?

食パン二枚にマヨネーズを塗りたくって、寒い中、金魚のように口をパクパクさせている。風を避けるためにヤッケのフードを被り湖の方に背を向けている。と後方から声が掛かった。

「さようなら。風邪を引かないでね」

振り返って見ると昨晩の、東京からの女の人だった。通りすぎて行く。やさしい心遣い。
 手を振っている。

「ええ、どうも」

鼻を啜(すす)っている。

どうも風邪を引いてしまったらしい。鼻水がまだ出てくる。それに寒い。寒いよ。風邪を引かないでね、と彼女たちに言われても言葉を返す元気もない。そう言われる前から風邪を引いてしまったらしい。今日も昨日同様の天候となるのだろうか。寒いので早く動こう、早く出掛けてしまおう。




■自転車屋の車に乗った

  パンク自転車を難儀そうに引きながら、田沢湖町へとゆっくりと歩いて行く。

  2、30分程歩いてから、一台の車が脇に止まる。何だろうと不思議がっていると、「ちょうど町に行く途中だから、」と言う。 一緒に乗せて行ってあげるということらしい。しかも「自分は自転車屋をやっている」とも言う。パンクを直してくれるということらしい。 まさか無料で直してくれるということではないだろう、と心の中で思っている。

  パンクしてしまった自転車を車の荷台に乗せ、ぼくも乗せて行って貰った。 お店に着いたならばパンクだけを直して貰おうと思っていた。


お店に着いた。

 「タイヤ自体も新しいものに全面的に替えなければならないようだ」パンクした箇所を眺めながら仰る。

 そんなことまでは全然予定していなかったので少々渋った。が、仕方ない、結局、タイヤとチューブの両方共、取り替えざるを得なかった。予想外の大出費。高くついてしまった。


■今日は何をする?

  さて、今日はどうしようか。これから何処へ行こうか。田沢湖駅へ行ったり、少々観光客の心持ちでその辺をうろうろしながら見て回ったり、結局、田沢湖近くでもう一泊でもしようかと、気がそちらの方へと向かって行く。こんな天候の悪い時に、向う側の盛岡へとこれから行っても面白くもないだろう。

 田沢湖へと再び戻って行く途中、今度は雨に会う。午前11時半、バス停小屋で雨宿り。午後になっても雨は降ったり止んだりで、完全に止むまでは 午後2時頃まで待たなければならなかった。
 

  日が射し始め、青空が見え出す。向うの山の頂きの紅葉がはっきりと眺められる。空の青色と雲の白色、紅葉の赤色と木々の緑色との対照が綺麗に映っていた。天気はこうでなくては!


■YHに宿泊

 今晩は田沢湖YHに泊ることにした。人が恋しい。同じ仲間との交流がしたい。久しぶりに自分へのちょっとした演出、贅沢でもある。守られた屋根の下で一夜を過ごすのも精神衛生上、時には必要だ。

  YHに泊ったら風呂に気が済むまで浸かり、飯も思う存分食ってやる!  今までの不足分を取り返してしまうかのように決意していた。

  風呂は狭かった。泳げるというものではなかった。飯は栗御飯、何故か思う存分には食えなかった。が、白い御飯もあってそれも食べたので腹一杯にはなった。一応「余は満足じゃ」と言える腹具合ではあったが、夕食後、しばらくしたら腹が痛んできた。やはり慣れないことはしない方が良かったのか。

 ミーティングの場でも食べ物、つまりリンゴとまたもや栗が出て来たということでそれにも手が伸びてしまい、腹に入れてしまう。

 空腹を抱えたままの旅を続けて来ていたので心までもが今では飢えてしまっているのだ。満腹にさせることでそんな欠如感を埋め合わせようとしていた。

 夜、寝室。

 自分のベッドの上、腹が痛くて痛くて、下腹を抱えながら笑うにも笑えず何度も寝返りを打っていた。

 

 

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