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「第3日」

   19xx年8月8日(火)快晴

     いわき(平)[福島県]→ 仙台[宮城県]

 

出発に先立ち、昨晩同室だった我等がホステラー達だけでYH玄関入口前に集まって記念写真を一枚、一緒に撮った。東北一周・自転車の旅の二人組みと一人旅の僕だけが本日、仙台に向かって行く。 

他のホステラー達は皆、YHを既に去った後で、何だか一人取り残されたような余韻が玄関前に漂う。気を取り直し、僕も遅ればせながら出発しよう。

 

 

■一人歩きが続く

一人リュックサックを背負って、国道6号線に沿って歩く。 

出発してから、かなりの距離を、かなりの時間を歩き続けていた。 来る車ごとにサインを出すのだが、何故か捕まえることが出来ない。 

  どうして止まらないのだろうか?

  どうして乗せて貰えないのだろうか? 

  
  

それにしても、この暑さ! 大粒の汗が今日も、額から始めのうちは遠慮深そうに躊躇うかのように流れ落ち ていたが、今はもう全然遠慮がない。目の中にもお構いなしに入りそうだ。目をつぶったまま顔を左右に激しく振って汗を払い除けたりする。 

この旅ではたくさん歩くこと、それは分かっている。でも、こんなに歩くとは! まだ慣れていない所為か、歩き続けることに嫌気が挿してくる。 

 
 車は止まって貰えるものと信じて歩いているのだが、長い間車が止まってくれないとなると足は疲れてくるし気持ちまでも気落ちがち。 

  もう止まって貰えないのではなかろうか。悲観的に考えたり思ったりしている。 

  どうして止まらないのだろう?

  止まって貰える手立てでもあるのだろうか。 

 

 

車を止めることを諦めて、車などに構っていられないよ、といった風に先へと急ぐかの如く、歩いて行く。 

時々、道路脇で一時立ち止まる。一息、二息と入れる。疲れる。走っている車は勢いが付いているから止まれないのだろう。自分なりに自分を納得させている。 

 偶に停車中の車の側を僕は通り掛かる。多分徒労に終わるだろうと分かっているが頼んでみる。 

 「この先の方へと乗せて行って貰えませんか?」 

 案の定、断られた。簡単に引き下がる。 

暑くてやりきれない、お互い様だ、と運転手さんも言いたいところなのかも知れない。車の都合もあるのに、こちらの意思だけで車を止まらせよう止まらせようとしていた自分であった 。   
 

 

■止まる車現れる

男の人二人が乗った軽トラックがようやくにして止まってくれた。「良かった!」と安心したと思いきや、草野歩道橋という所まで、近距離。やはり止まって 貰えると分かって、一安心した。車への信頼が幾分回復した。 

次ぎは青年二人が乗る乗用車。久の浜に海水浴に行くのだそうだ。四倉の手前、車両類は「通行止め」と表示されていた。実は昨日の台風で国道6号線はこの先決壊したとのこと。「通行止め」で車は迂回 を余儀なくされている。でも、人だったら何ら問題なく通れる、とのこと。 

前進するためには車に乗せて貰うことが必要だし、車が拾えなければ前へと進めないし、、、、 そんな風に車と自分との繋がり関係を当然ながら考えた結果、車の迂回路に沿って歩いて行くことにした。 

迂回路とは山道であった。6号線に再び出て来て合流するまで約一時間歩いた。期待に反して車は殆ど通らなかった。 判断、選択を誤ったと気がついたときは既に後の祭り。車に拾われなかったとしても、迂回の山道を行かずに直接国道6号線に沿って行けば時間的にももっと早く前進出来ただろう。まだ旅の仕方に慣れていない自分を知った。これから学んで行くしかない。 

台風一過の、倒壊した現場を見た。上下一車線の道路は紙をビリッと無理遣りに引き千切ったが如く、三角形にひび割れしたような形で段差が出来ていた。 

現場を通り過ぎた後、ようやくにして、さつまいも、スイカなどと積んだ軽自動車に乗れた。富吉と言う所で荷を一部降ろすために立ち寄り、浪江と言う所に着いたのが午後零時半。 

下車してからは、すぐにその場で乗り継ぎのトラックを拾えたが、荷台に寝転がらねばならなかった。振動が激しいの何の、と。それに太陽が直に顔面を照らす。荷台の中、生きた荷物のように原町まで運搬されて来た。 

 

 

■昼食後、簡単に乗れたが、、、

原町ドライブインの中へと入って行く。午後1時から45分間、一人だけでの昼食。 

食後の休憩も終え、さてと、先へと進んで行こうか、と心も腹も満ち足りた気分で道路沿いに立ったところ、今度は意図も簡単に大型トラックに乗れた。

午前中のようにだらだらと歩くこともなかった。午前中、結構歩いて貯金が出来ていたから、午後は直ぐに乗れたのか。目の前の道路脇にただ佇んだまま気長に、そして不思議にも急く気持ちは消え失せていた。

仕事から帰る途中とのことで運転手さんは気も軽そうだし、楽そうだ。何だか僕も調子を合わせて気が更にゆったりと大きくなったような心持だ。

 

■大睡魔と闘う

太陽光線がちょうど僕の座っている左側窓から強烈に射し入ってくる。運転台にただじっと座っているだけでも汗がじわじわと出て来る。しかも困ったことに堪らなく眠くなってくる。図々しくも眠ってしまっては運転手さんに大変失礼だと思い、何とか眠らないように努力するのだが、うとうとしながら目が無意識のうちに閉じてしまう。気が付いたと思ったらこっくりこっくりしている。気持ち良い。

いや、気持ち良く寝入ってしまっては駄目なのだ。寝ているときに何が起こるかも分からない。

 「起きろ! 眠るな! 目覚めていろ!」自分に向かって発破をかける。

運転手さんの運転を信頼しないという訳ではないが、万が一事故でも起きてしまって、目覚めて見たら、 知らない所に自分を発見するかも。ここはどこだろう? などと見慣れない、不可思議な世界に、ひょっとして来てしまっているかも知れない。そのような大事に至らないようにと、ひとり旅では常に周囲に目をカッと見開いて用心していなければならない。用心しても用心し過ぎることはない。そう自分に言い聞かせてい る。何んでもかんでも人任せには出来ない。自己責任も問われるのだ。

 しかし、とても眠い。たまらなく眠い。この困難を如何に乗り切るか。

土俵上、仕切りを繰り返しながら、さあ、制限時間一杯、館内、喚声が響き渡る中、当の対戦相手同士のお相撲さん、勝利を確信し精神を引き締めるためにもよくやっている 、それを思い出した。僕も痛いのを我慢して、思わず両手で顔面を叩いた。そして、次にはお相撲さんのように、気合を入れて相手に向かって、突進して行くのではなく、僕はそこに座ったまま、実は上半身を一発、いや、二発とコンニャク運動を少々大袈裟に噛ましてやった。余り効き目はなかったが。

 眠ってしまってはいけないのだ。

「眠るな! 眠るな! 眠るな! 眠るな!」と自分に向って叫んでいる。 眠らないようにと、精一杯の努力をしている 。 眠ってしまったら、前後不覚、後は何が起こったとしても知らない。責任が取れない。必死の努力が続いた。

実は、車の中、真夏の蒸し暑さが明るく充満していた。しかも、昼食後、腹の中も眠気が重たく充満していた。

 

 

 

■やっと下車

我等運転台の三人、競走馬の如く、わき目も振らず、前方、車の進行方向だけを凝視。道路が車の下に飛び込んで来る。皆一人一人黙りこくって、岩沼に到着するのを待っているだけ。尻の下、エンジン音がビリビリと伝わってくる。車は果てしなく続く道路を一生懸命、文句も言わずに走り続けている。

車の窓は半分開けっぱなし。涼しい風を所望したいところだが、熱風だけが顔を摩ってゆく。

 道路は何処までも一直線。単調なドライブ。

始まりがあって終わりがある。下車の時間がやっと来た。眠気と戦い続けていた車の中からようやく解放された。一安心であった。
 
 

さて、本日の目的地は仙台だった。降り立った所ではヒッチしたくとも交通量が多く、この人間一人の力だけでは車の流れは容易に止めることができない。そんな勢いが午後の自動車道路上には漲っている。ここから仙台市内までは目と鼻の先だという。どうやったら車を捕らえられるだろうか?

午後3時半を過ぎていたと思う。車の流れが一時パッと切れた合間を巧みに捉えてサインを送り、ようやくダンプカーを止めた。いや、止まってくれた。

実は運転手さんも昔、学生の頃、北海道へ、ヒッチハイクで旅をしたのだそうだ。その昔の自分の姿を僕の姿と見て取ってくれたのだろう。お金を使わずに遠くまで行く方法など、色々と話してくれた。列車のトイレに入ったり、大学の寮に泊まったり、またアルバイトも考えた、とか。

仙台へ入って、市内、何処で降ろされたのか。現在地が分からず、通りすがりの人に訊いてみたところ、仙台駅までは30分以上、歩かなければならない、と。結局、もう疲れていた。億劫だったからYHの近くまでバスを使って来てしまった。

 

■超満員のYH

YHには午後5時半、到着。

仙台市内、街中は七夕祭りで色々と飾りが見られた。飛び込みの宿泊先となった「赤門YH」には定員百名のところ、今日は5百名も泊まった との話。勿論、風呂は満員、食堂も満員、勿論、全くうんざりする程ごった返していた。寝るところも鉄筋5階の部屋、床に直に筵(むしろ)を臨時に敷き、そこに布団を敷いて寝転がるということになった。

夕食後、僕と同様、本日は秋田の方からヒッチハイクで一人旅をして来たという人と屋上に出て夕涼み、色々と話した。ひとり旅同士でエール交換 。

「俺はね、女の子に飢えていて欲求不満なんだ。明日は青森で約束した女の子と平泉で落ち合うことになっている」

初対面の僕に対して、欲求不満なんだ、と何ら羞じることもなく口にする、そんなふてぶてしさと言うのか、率直さとでも言うのか、旅の恥じは掻き捨てとでも言うことなのか、僕は内心、驚いてしまった。

同室となったホステラー達に積極的に話し掛けて、色々と話を聞いて見ると、明日、平泉に行くという人ばかり。平泉のYHでは明日、満員御礼の垂れ布が受付け窓口に掲げられるかどうかは知らないが、今の時期は多くの人にとって夏の休暇期間中でもあるし、こうした状況を考えて見ると飛び込みの宿泊申し込みは断られるだろう。明日は僕も平泉へと行く積もりにしていたが、急遽、予定変更。これからも国道6号線を辿って北上することにし た。

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