石巻[宮城県]→ 陸前高田[岩手県] 日本一周ひとり旅↑ 午前7時半、YHの木村旅館を出た。
「第6日」 19xx年8月11日(金)晴れ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 陸前高田[岩手県]→ 宮古
嬉しいことに朝食は食パンの食べ放題。食べるのに忙しくて、一々数えてはいなかったが、トーストパンは10枚ぐらい平らげ、紅茶も5杯ぐらい飲み干した。何しろこんなに美味しい朝食は初めて。ついつい食欲が進み過ぎてしまった。
もうこれ以上食べ切れない、飲み切れないというところで朝食を終え、ここのYHに泊まったのは文字通り正解だったと、気を良くして、名残惜しそうに食堂を後にした。
美味しい朝食は旅における一つの贅沢であることを知った。
午前8時半、出発。宿泊が同室だった男の人のオートバイで駅前の道路まで乗
せて来て貰った。良いことが続くものだ。出発時、昨日は自分の足を使ったが、本日は一歩も歩かずに、直ぐにヒッチハイク態勢に移れるのであった。
乗用車に拾われて「おきらい」というところまで来た。何がお嫌い、なのかな? 面白い地名だ、とちょっと思った。
下車して前方に眼をやると、同じ道路沿いに僕と同様の出で立ち、やはりリュックサックを背負ったヒッチハイカーらしい男の人が歩いている。近づいて行って話し掛ける。北海道へと帰る途中なのだそうだ。道路沿いを暫くは一緒に並んで歩きながらお互いに話していたが、二人一緒では車の止まる確率も低いだろうと、ヒッチハイクの成功率低下を嫌って、またお互いに話が尽きたということで別れて、
お互いにヒッチハイクをするのにマイナスとならない距離が取れるように、僕はどんどんと先に歩いて行った。
上り坂がずっと続く。峠に向かっているらしい。車は坂の途中では得てして停まらない。だから平坦な所に出て来るまで歩き続けてしまおうとする。が、比較的傾斜の緩やかな平坦な場所を求めて先へ先へと進んで行っても、その平坦な場所が現れない。
急な勾配で、もう歩き続けるのもしんどい。上り坂の途中、立ち止まった。両肘を膝に掛けて、両足で踏ん張るが如く、上半身を曲げたまま一息入れる。背中の荷物の重みが両肩から背中全面に移動した。腰も疲れた。
そんな屈伸状態のまま、その場に暫く留まっていた。と、アイデアが念頭を過った。一か八か、ちょっと気分転換に試してみよう、と思った。半と出るか、丁と出るか。
次に上って来る車をヒッチしてみよう。車を待つ。
車がなかなか現れない。手持ち無沙汰な時間が静かに過ぎて行く。周囲の樹木が高く聳えている環境にいる自分を感じている。歩き出さずに、来るまで待っていよう。気楽に構えていた。
やっと一台やって来た。
止まるかどうか。
あの図体のどでかいガソリンタンク車が―― 旅に慣れてきた所為か、我が興奮振りも少々大人びてきたらしい。極力抑えた静かな興奮。
そのガソリンタンク車が・・実は、止まった!
坂の途上では止まらないものだと当然の如く思い込んでいたのに、止まった! これは新しい発見だ。嬉しい。
素直に感動してしまった。午前9時50分のことだった。
北海道へ帰って行く途中だという先ほどの彼も途中でヒッチが出来たらしく、僕が乗った車の脇を手を振りながら、「お先に〜!」と笑顔で追い越して行った。が、その後すぐに降ろされてしまったらしく、前方、歩いているのが眺められた。今度は僕が「お先に〜!」と言う番だ、と彼に近づてきたら大声で怒鳴ってやろうと思いながら身構えていると、運転者さんが僕に聞いて来る。
「君の友達か?」
「ええ、そうです」
同じ仲間。機転を働かして、上手く即答出来てしまっていた自分だったので、我ながら内心驚いてしまった。
このガソリンタンク車に彼も拾われ、我ら、――そう、同じ目的を持った友達、仲間なのだ――、我らヒッチハイクの二人はまた御一緒することになった。さっきまでは一緒に仲良く並んで歩いていたが、今度は車の中、道路上を歩いていた時の感覚とは全く異なった、進行方向左右に連続的に展開するパノラマ風の景色を遥か高所から展望出来る特権を得たかの如く、そんな運転台の特等席に一緒に並んで座ったまま、まるで大船(大車ではあったが、)に乗ったような
殿様気分であった。車は重たそうにグングンと、しかし確実に前進して行く 。
製鉄の町、釜石を通り過ぎ、このタンク車で宮古(ミヤコ)市まで、詳しくは 「宮古橋」手前まで来ることが出来た。
■浄土ケ浜海岸へ、二度目の海水浴
午後2時10分、YHに着いた。木村旅館という。YHを兼ねた旅館と言った ところか。大部屋に通された。
予約受付が実際に始まるまでにはまだ時間的に早かったので、それに旅館の女性責任者の「バスで20分位しか掛かりませんよ、いってらっしゃい、海水パンツも持って行きなさい」という強い勧めもあって、浄土ケ浜海岸へと一人で出掛けて行った。
ここの海岸は結構有名らしく、海水浴客で一杯だった。図らずも昨日に引き続き、海水に触れる。荷物はYHに預け、身軽くなってバスに乗って来たので、昨日のような
持参の荷物についての滑稽な心配をすることもなく、本日は全く気楽なもの。
海水浴というと普通、砂と海水を連想するものだが、ここに来てみたところ、両足で立てる海底は予想に反して浅い岩床であった。ちょっと勝手が違って、戸惑ってしまった
。油断していたためか、左足の親指、二ヶ所、岩の尖った所を踏ん付けて切り傷を負ってしまった。
YHでの夕食に何を食べたかは忘れてしまった。「拓郎」というヘルパーがいた。あの歌手と同じ名前だ。髪は女の子のように長く、また女の子のように綺麗に同じ長さに揃えてあった。後ろ姿は全く女の子。女の子に見間違えられたとしても僕の所為ではない。男が女らしく髪を装っている。旅に出ると面白い人に遭遇する
。
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