今日は津軽海峡を越える予定。生まれて初めての、北海道へと渡って行く 。
午前9時、下北YHを発った。
毎度のこと、本日の目的地に向かって、まずは一歩踏み出す。
暫くすると、19歳の青年が運転する車に乗れた。
大畑(オオハタ)まで乗って来た。
橋を歩いて渡って大畑川を過ぎ、それからは上り坂を暫く歩く。
今ではもう慣れてきたが、もっとたくさん慣れろ、ということなのか、
午前中は歩き続けてばかりいた。
段段と歩くことにも疲れを感じ始めていた。
早く乗りたい。
ここらへんで気分転換が欲しい、乗って行きたい。
そう思いながら、脇を通過しようとする何台かの車に向かって、
ヒッチのサインを出すが相変わらず、通過が続く。
毎日、車任せの旅が続く。
車に乗れないとなれば、歩いて行くしかない。
歩かなくとも良い。走って行って良いのだ。が、どんどんと走って進んで行くことも、
別に競争相手もいないことだし、走って行くことはしない。
漸く止まってくれた車!
”偶然”というものがあるのかどうかは知らないが、”偶然”止まった。
いや、止まったから「偶然」ではない。
乗る前に尋ねて確認して見た。
えっ?
この車、
何と!
津軽海峡を渡って北海道、札幌まで行くというではないか!
これも”偶然”か?
途中での乗換えなしだ。
この一台で長距離を移動出来てしまう!
本当に北海道は札幌まで一気に行ってしまおうか!?
ちょっと考えて見た。
「途中の、大沼公園入口まで、乗せて行って下さい」
まずは本州の北の果て、大間崎(オオマザキ)まで行き、
そこからはフェリーボートに乗り込む。
運転手さんの助手としての立場で、車ごとフェリーに乗り込み、
フェリーは我々を北海道の陸地、戸井(トイ)まで運んで来てくれた。
大間-戸井は、本州と北海道との海上最短距離なのだそうだ。
■北海道に上陸!
戸井に着いてからはまた車の運転が始まり、今度は函館に向けてひたすら走り続けた。
今、正に函館駅前を通過し、国道5号線の両側、松の並木道の如く、それらを見ながら走っている。
時速40km、ちょっと遅い。こんな遅い運転は初めてだ。
ヒッチハイカーのぼくが乗っているからか、安全運転を励行しているのかも知れない。
大沼公園に着いた。
下車する前に運転手さんに住所とお名前を尋ねた。後日、礼状を出したかったからである。
「そんなこと、いいよ!」
「気を付けて!」
そう言われた時は嬉しかった。気を良くしてまた歩き始める。
北海道だ。はじめての北海道!
もう歩き始めている自分だった。
今、この両足で北海道を歩いている!
そんな実感を噛締めながら一歩一歩進んで行く。
15分程歩いたところで、大人一人、子供二人が乗ったバンが偶然止まってくれた。
別にヒッチハイクのサインを出した訳ではなかった。
ぼくの姿を見て止まってくれた。御親切にも YHまで見送ってくれた。
YHに到着。 午後2時45分だった。
事前の予約もせずに、直接、もう玄関口前に来てしまった。
どんなものか、断られてしまうかも知れない、とちょっと悲観的な思いが念頭を過ぎったが、そのまま、どんなものか確認して見ようと、受付の窓口に顔を出してみる。
「こんにちは!」
ぼくがやって来たのを認めて、奥の方からは元気な明るい挨拶がすっ飛んで来た。
宿泊の申込書を手渡してくれた。
断られずに済んだ。
以前、断られることが何度かあり、断られてしまうのが辛かった。
男性の予約にはまだ余裕があったが、女性の方はもう予約一杯だったのだそうだ。
女性に人気のある大沼公園なのかも知れない。
風呂、洗濯と終えてから、本日の旅の疲れを忘れるために外へと出る。
外のベンチに一人で座っていた女の子、良く見ると、受付で元気良く明るく、歓迎の挨拶をしてくれた女の子ではないか。
「こんにちは!」
今度はぼくの番であった。ぼくがここにやってくるのを先回りして待っていてくれたのかな、
などとぼくは心の中で自分勝手にニッコリ、同じベンチに腰掛ける。
こうして間近で、面と向かって良く良く見ると、割とかわいい女の子だ。
女の子に話し掛けることなど何となく気恥ずかしくて自分の方から話し掛けて行くことなど殆どなかったぼくも、本州の都会とは異なった、北海道という別天地での新しい空気がそうさせるのか、
割りと糞度胸があったのか、話し掛けている。彼女はこのYHでヘルパーをやっているのだそうだ。
ここのYHの良い評判について話した。
「あらっ、ヘルパーが良いからかしら?」
彼女も上手だ。自分勝手に解釈している。
どんなものか。人づてに聞いたのをそのまま伝えたに過ぎない。
はっきりしたことは分からない。でも、こうして話して見ると、
このヘルパーの女の子が確かにかわいいからなのかもしれない、と思えて来た。
「かわいい女の子がいるよ」という情報だけで、そしてその女の子を実際に見たいが故に、つまり、この女の子のことだったが、このYHにやってくるホステラーも結構いるそうだ。
ぼくの場合は、ちょうど旅の途上にこのYHがあったということだけでここにやってきて止まった、いや、泊まった。この女の子は原因ではなく、結果であった。
夜のミーティング。まず盆踊りへと公園まで出掛けて行った。
帰って来てからは、皆で歌を三曲歌う。お互いに手をつないだり、肩を組んだりして歌った。
手をつなぐなんて、少々気恥ずかしい思いがしたが、そんな思いもぐっと飲み込んで、また肩を組むほどお互いに親しいわけでもなかったが、そんなひねくれた思いも打ち消して、ミーティングの進行に素直に従って行った。
YH内の雰囲気が何処となくエレガントに感じられる。
思えば、もう北海道に来てしまっている!
はじめての日本一周、はじめての北海道。
はじめての北海道!
北 海 道!
はじめて北海道一周の旅が始まった。