珊内 日本一周ひとり旅↑ 珊内→神恵内→古平→美国→余別→札幌
「第13日」
「舟は余別の方へは、――― 出ません!」 えっ、出ない!? やっぱり、いや、今日も!? 出る筈だった筈。ウソであって欲しいい!
「大変失礼致しました。実は、誤報でした!」 そんな続報が今か今かと待っていてもこの耳にはとうとう届かなかった。 賭けには自信たっぷりであったのにも拘わらず、意図も簡単に敗れてしまった。
しかし、本当に出ないのか? 陸上では風も無いというのに 、、、、。それとも海上に出れば風が強いのか。 予約乗客数が少な過ぎるのかも? 舟が出ない理由をいろいろと自分勝手に考えていた。理由を聞かされていないからだ。 いまだに信じられない。
残念、誠に残念。 出発をわざわざ一日遅らせて待ったのに、期待した通りコトは今日も起こらなかった。
■歩いて行こう、駆けて行こう 出ないと決まったら、潔(いさぎよ)く歩いて行 くだけだ。 勿論、海上を歩いて行くわけではない。 二度と訪れること はないかも知れないだろう。そんな一度きりという思いと覚悟を秘めながら出発したこの旅であった。だから出来るだけ日本各地を体験して見よう。次回、また来る機会があると分かっているならば、それなりに諦めもつくというものだが、多分二度と訪れることもないのだから。これも人生なのか。積丹半島一周は諦めよう。
歩いて行く覚悟も出来上がっていたので、午前8時、YHを一人でひっそりと出た。 神恵内までの距離を2時間半、歩きに歩き捲くった。そして駆けた。一時間半(例の立て標識風に記すと、90分!)はとぼとぼと歩いて、30分間は ひょいひょいと駆け足で山を下った。 一人で歩いていると、ぼくよりも遅れてYHを出発した人達を乗せた車、YH所有の車なのだろう、その車がそのまま ぼくの脇を通過して行こうとし た。が、やはり気がちょっと変わったのか、ぼくの横脇に一時停車する。ぼくも乗せて行って貰えるのかと思ったが、違った。背中の荷物を神恵内まで運んで行ってくれると言う。そうですか、それではお願いします。車に 預ける。
これは不思議だ。荷を外した途端、文字通り、肩の荷が降りた。しかも同時に体全体が地上をふわっと離れ、宙に浮いたような感覚。今まで押さえに押さえられて来た全身が急に解放され、軽快になり、ひょいひょいと、そしてもう一つ、ひょいと三段跳びのように思う存分高飛びが出来るような、そんな感覚を体全体に受けたためにか、徐々に、しかし確実に、エンジンは全開だ。レーサーの如き超人的な駆け足となった。 今、びゅんびゅんと跳び翔けている。韋駄天走りだ。天空を一飛びにこの両足で交互に掻いているようだし、見えない相手とまるで徒競走をしているようでもある。 これはどうしたことか。ぼくは突然何かに取り憑かれてしまったのか、これでもか、これでもか、これでもか、どうだ、どうだ、どうだ! これでもか、どうだ、もっと早く走れるか、走れるのか、いや、もっと早く、もっともっと早く、もっと早く走れ! それっ、走れ! 走れ! 走れ! それっ、走れ! 終にはどのくらい早く走れるものなのかと最大限むきになって、狂ってしまったかの如く、両膝を交互に高く上げて一目散に走った。走りに走った。自己の可能性を最大限に発揮しようとして、全身全霊を傾けながら、フランスの誰かが言ったと伝えられているように、自分の辞書にだって「不可能なことはない!」と無我夢中に疾駆した。 走れ! 走れ! 自分を無際限に嗾けた。足が前へ、前へと自分の意志とは無関係に激しく投げ駆け出されて行く。これ以上は有り得ないだろうと、可能な限りの全速力での独走。足がもつれて、絡まって、地べたにぶっ倒れるのではなかろうかと脳裡の片隅にそんな危惧の念がこの気違いじみた行動をはらはらしながらも冷静にじっと見守っているのでもあった 。 勢いが付き過ぎて、もう止めようにも止められない、止まらない。 約30分間、駆け足が続いた。坂を超特急で下って行った。 止められない。 久し振りに全速力で駆け 抜けた。賭けには負けたが、駆けには勝った。
■約7時間半、車に便乗、積丹半島一周 国道229号線に入って、直ぐに、でもなかったが、簡単に車を捕まえることが出来た。積丹半島一周へのぼくの思い入れがそれなりに伝わっていたのだろうか。神恵内へ、古平へ、美国(ビクニ)へ、そして余別 (ヨベツ)へとこの車、ぼくに劣らず走り通した。 美国を過ぎる頃からは雨が降りだし、余別に着いた頃には土砂降り、だから下車して、神威(カムイ)岬の先へと、「ちょっとそこまで歩いて行って見物して見ませんか?」などと率先して言う人は誰もいなかった。 「この雨じゃ仕方ないですね」と車の中に居残ったまま、その間脳裡の中を整理整頓していたかの如く、暫く停車した後、何の未練もなく、そのままユーターンであった。 来た道を戻り、余別から美国へと帰って来て、更に古平を過ぎ、車はそのまま小樽を通過。札幌へと一路、雨が降り続く中を走り抜けて行った。積丹半島は今日も雨だった。
札幌市内に入っ た。 車の中での話題が今晩何処に ぼくが泊まることになるのかということになった。北大寮に泊まることが出来るという。 大人三人(男の運転手一人と女性二人、一人は先生らしく、もう一人は運転 手の奥さんらしい)と一緒に約7時間半!! そう、一緒に行動を共にした。諦めていた積丹半島一周もそれに近いことをさせて頂いた。 午後5時頃、札幌の北大正門前に着いた。
「すいません、泊めさせて下さ い」 簡単にOKであった。今晩は宿探しに苦労することもなかった。 雨も午後6時過ぎにはようやく止んだ。
本日も無事に終わった。
■一口 コメント 美国(ビクニ)、この地名、中国語ではこう書いて、確か、“米国”・アメリカ合衆国を意味するとか。 美しい国がアメリカなのか。
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