「第45日」
19xx年9月19日(火)雨
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 登別温泉→ 長万部
■朝の雨
午前6時45分、起床。
毎日、無事に起き上がることが出来る。幸いなり。それ故に旅を続けることが出来るのだから。
午前7時頃、朝食を取っていると、雨だ。屋根に当る音で分かる。
実は雨にはもううんざり、全く、閉口する。このところ雨降り続きばっかり!
そう言えば夜中にも降っていた。息を潜めながらも微かに雨音が聞えていた。
ラジオの天気予報によると、台風20号は渡島半島の西海上に停滞している。渡島半島を通過して稚内の方へと抜けたのではなかったのか。台風がそんな所にいるものだから、その影響を受けて胆振地方は雨模様。この旅人もいい迷惑だ。旅はし難いし、車は拾い難いし、一種の憂鬱症に陥ってしまう。
■雨の中へと出発
横浜からの人、旅行中に傘を盗まれ、この雨の中、歩いても行けないと言う。雨でなかったならば連泊するということだったらしいが、仕方なしにタクシーを呼んだ。
タクシーが来た。午前8時20分、一緒にYHを出る。ぼくはタクシーに便乗させて貰った。約15分間、国道にぶつかる所まで。
下車後、すぐ交差点脇にはおもちゃ屋さん、そのテラスの下で雨宿り。目の前を車は引っ切り無しに走っているので、何となく捕まえやすい気を起こさせる。が、雨の中、そう簡単には止まらない。分かっている。分かっているのだ。
それでも何かが起こるかも知れないと淡い期待を抱きながら、そこにじっと待っていた。
やはり突っ立っていても何も起こらない。いい加減時間が経った後、雨の中を歩き出す。と、歩道橋がある。都合良くその下でまたも雨宿りの続き。と、同時に自動車がこちらに向けて走ってくる方向に面と向う。
手を上げたら、おお、乗用車が止まった! 午前9時35分〜午前10時まで。
東室蘭まで、途中二度程、蒸気機関車と平行して走る。競争と言うほどでもないが、勿論、向うの方が勝つ。煙を吐きながら、その重そうなどっしりとした図体を線路に押しつけるようにして進んで行く。何故かとても息苦しそうだ。
どっしりとした機関車に魅力を感じる人の気持ちが分からないでもなかった。
■雨宿りを重ねながら前進
相変わらず雨は降り続く。小降りなのだから、直ぐに止むと期待したくなるが、それがいつまでも続くのだ、だからいい加減雨には愛想を尽かす。
車を下り、直ぐバス小屋に雨宿り。でも直ぐ出る。25分間ぐらい、国道沿いを雨に濡れたまま歩いた。ある会社の事業所なのだろう、「どうぞお入りください、そして心ゆくまで雨宿りをして行ってください。別に料金は頂きません」と張り紙がしてあった訳ではなかったが、ドアが思いきり全開。
ここで豪華に雨宿りしながら車をヒッチしようと考えたのは当然だ。でも、二、三度試みたが徒労に終った。腰を屈めたり、立ったり、屈伸運動、空を見上げたり、車の通過するのをぼんやりと見ていたり、腹が痛くなればそれだけに気を使ったり、何時になったら、この雨は止むのだろうか。
いつまでも埒が開かない。正午ちょうど、思い切って雨の中を出かける。歩き出したら雨が止んでくる。
殆ど止んだのでレインコートを畳み、ヒッチ開始だ。程なく一台の乗用車で伊達まで来ることが出来た。正午25分から25分間。
伊達市は北海道の中でも一番住み心地が良い所なのだそうだ。山と畑が道路に迫っていて、雨上がりの風景は清々しい。上り一方の坂を歩き切って、今度は下っていると、「乗って行きな」と一台の乗用車が前方に止まってくれる。午後1時10分〜1時25分まで。洞爺湖駅前で降ろされる。
腹が減ったのでパンを買い食う。袋菓子も買うが食わない。
20分間歩き、今度は洗濯車が前方に止まり、乗って行け、と奨めてくれる。勿論、断ることもない。この車は洞爺湖と函館との間を毎日往復しているのだそうだ。洗濯物を運搬する仕事。歩いている人でも、自転車で走っている人でも、帰りの道は空になった車に乗せて行くことにしているのだそうだ。ぼくは歩いている人だった。午後1時45分から午後2時30分まで。
■長万部駅待合室に納まる
本日は長万部(オシャマンベ)駅に泊まることに決めていた。午後2時半に着いてしまった。それにしてもちょっと早過ぎた。
「長万部は何も見るものはないよ。どうだ、函館まで行かないか。どうせ、またここに戻って来るのだから」
そんな運転手さんの誘いを断ったことが悔やまれる。でも、函館に行ったからといってどうなるのか。見物でもさせてくれたのかな? 違う。函館に着いたら荷物を置いて、そのまま折り返すのだ。函館には行かない、と言ったら,運転手さん、ちょっと不満そうだった。駅のベンチに腰掛け、溜まった旅日記を書いている。
午後7時40分、プラスチック製の椅子を4つベッド代わりにして横たわる。が、尻を合わせようとすると背中が合わず痛く、また逆も真なり。そういうわけで体全体を安定させ落着かせ、そして楽な姿勢で寝ようとしてもそれは無理な相談だということが分かった。噂に聞いていたが、実際、全くその通りであった。床の上に直に寝てしまった方がより快適だったことだろう。
何ら盛り上がりの無い一日であった。
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