鰺ヶ沢「青森県」→ 弘前「青森県」   日本一周ひとり旅↑   能代「秋田県」→ 男鹿半島「秋田県」 

第58日」

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はじめてだった、日本一周ひとり旅 ◆

      19××年10月2日(月)晴れ

       〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 弘前「青森県」→ 能代「秋田県」

 

■突然の、ご訪問

昨夜の雨は物凄かった。

まさか雨漏りのする小屋とは想像もしていなかったが、雨が降る直前にタイミング良く小屋の中に収まっていたから、 それでもドブ鼠のようにズブ濡れになることだけは免(まぬが)れた。勿怪(もっけ)の幸い也。

朝になったら、人がやって来ないうちに起き上がって、ここを早く出て行こう、ここに泊まったことが知られないように、などと考え、 目が覚めた後、寝転がったまま、それでは午前6時頃にしようか7時頃にしようかと、何となくの寝不足気味の気分も手伝ってか、決め兼ねていた。 「ええい、午前6時、今起きてしまえ!」と逡巡する自分を急き立て跳ね除けるかのように跳ね起き上がり、そのまま寝袋を畳もうとしていた、とちょうどその時、その時であった。

 ――  戸が「ガラリッ!」

 ―― ボクは「ギクリッ」

背にしていた小屋の戸、それが何の予告もなしに、自動的に言わば勝手に「ガラリッ!」と開いてしま ったのだから。急に明かりが差して来た。小屋の中は明るくなった。

ボクは「ギクリッ」と内心慌てた。見つかってしまった。どうしよう? 隠れられる所があれば隠れてしまいたいと思ったが、何処もない、直ぐに観念した。

おじいさんがちょっと言葉を失ったかのような表情で立ち尽している。

「驚いたな、もう」

言葉には出て来なかったが、そんな風に聞えるかのようであった。

驚いたのはこっちもであった。お互いにちょっと当惑した表情を想像してみると良い。                       「初(恥じ?)めまして、どうぞよろしく」と挨拶をすることさえも忘れてしまった。

慌ててはいけない。冷静を保って保って、落ち着け、落ち着いて――、その間、自分に無言で言い聞かせていた。
 

「事前に許可も得ずに寝てしまって申し訳ありません!」

「日本一周の旅の途中、昨晩は寝るところがなかったので、ついこんなところに来てしまいました。すいませんでした」

平静を装って、おじいさんには事情を腹の底から噛んで含めるかのようにゆっくり話す。


実際、こっ酷く怒られるかと思った。ところが、おじいさん、

「前にもこの同じ場所に自転車で来た人がいたよ」とか、

「キャンプして行ったよ」とか、そんな出来事、そんな思い出を話してくれる。

歴代の旅人はこのおじいさんのリンゴ園の小屋を眺めて同じようなことを思った。そして行動に移した。 そんな隠れた事実がおじいさんによって初めて明らかにされた。ここは格好の宿泊場所となってしまっていたのだ。 かくしてぼくもそんな歴代の一人となった。

と御自分の話しがまだ途中で、全部終ってもいないのに、何か急用でも思い出されたのか、 まだ続きそうな話の腰を折るかのように、尻を端折るかのようにさっと ぼくの目の前から姿を消してしまった。どうしたのだろうとちょっと宙ぶらりんの心持ち、きょとんとしていると、程なくまた現れた。

 「リンゴ5個持って行きな」

 手渡してくれる。

無断で小屋を利用したのに、おじいさん、怒ってはいなかったのだ。この若者の前途を祝して、御自分のリンゴ園で取れたリンゴまでくれた。



  

■車は停まらない

 
午前6時55分、国道7号線へと出る。道路沿いには家並みもなく、 ただただ畑が続くだけ。だからヒッチもしやすい、しかも朝方である。そういう有利な 事情を思い合わせながら、手を挙げたのだが、止まった車は一台もない。皆、申し合わせたように通過だ。

畜生!(失礼!) 止まってくれよ! 

「駄目駄目、駄目だよ!」といった風に露骨にも手をわざわざ振るジェスチャーをしながら通過して行く車もあった。

ああ、またも、だ。「駄目だよ」といっているのか、あの手の振り方、そしてあの笑顔は、それとも苦笑いか。

それとも「頑張ってね、またねえ〜、ごめんねえ〜」とでも言っているのか、あの手の振り様は。

どっちなのかはっきりしてくれ。

それにしても、どうして止まらんのか? 


北海道では意図も簡単に止まった。ここは北海道ではない? 本州に再び渡って来て、痛切に感じること、 それはちょっとやそっとでは車は止まらない。

十和田湖周辺を歩き続けていたことが思い出された。あれやこれやと断片を思い繋ぎ合わせると、 悲観的な気持ちになってしまう。こんなことでは東北一周の旅はどうなることやら、こんな調子で旅を続けてゆくことになるのだろうか。 解答がはっきりしない疑問が残る。

午前7時40分、石川を通過。両側は家並が続くから、そして駐車禁止ともなっているから、沿道を歩いて行くが、 とうとう午前8時には大鰐(オオワニ)まで、あと4kmの地点までやって来てしまった。途中、 何度も容易にヒッチできそうな地点を通過しながら来てしまった。

目の前、前方には何処までも、いや何時までも終るともない国道が続いている。気が遠くなりそうだ。

車は止まらない。歩かなければ目的地まで行けない。そうと分かっているから歩き続ける。しかし、疲れる。 歩くことが疲れるのではなく、長時間歩くことが疲れるのだ。

肩の荷が重いとも思う。重い思い。

 もう駄目だ、とも思う。これではもう駄目だ、悲観の材料が肩の上、背中に積み重なる。かくしてこの旅は破綻するのか。
 

 「汽車に乗って家に帰ろうか」
 ちらっとそんな思いが湧いた。

――ところで、家に一番近い所から乗りたいが、駅としては何処になるのだろう。

――でも惜しいじゃないか。折角決めた東北一周! 途中で諦めなければならないとは。

「さっさと汽車に乗って帰ろう」

またも、同じ思いが湧いてくる。今度は少々本気になって思い始めている。

その思いに触発されて真剣になって自分の、今の置かれている状況を考えた。日本版ハムレットか。 帰ろうか、帰るまいか。日本一周の旅を中断してしまった結果を想像した。中断して悔やんでいる、 後悔している自分の姿が浮かんでくる。後悔するなら最初から後悔しないように続けてゆけば良いのだ。 結果を先取りして心は変わった。

 

 

■車は停まった

ちょっと下り坂になった、見通しの利く道路に出て、 後から接近してくるダンプカーにどうせ止まらないだろうと思いながらも手を挙げる。

と、どういう風の吹き回しだろうか。あの図体の大きい車、速度を次第に落とし今にも止まりそうな気配だ。

おお、止まった! 
 信じられない。

信じられないけれども、止まった! 
 止まってくれた。必死な思いが通じたのか。

「あのう、能代まで行きたいのですが・・・・・・・・・」

当初、大館までの積りだったのが、能代へと目的地を変える、と言ってもそこで、能代で何か特別なことをするというわけで
もない。旅のコース、その過程でしかない。だが、車は能代までは行かず、その手前の町、二ツ井(フタツイ)までだった。
それでも相当長い距離を移動したことになる。午前10時〜11時25分まで。

ダンプカーに乗る前と同じ調子で歩いて行く。やはり希望はある。

昼食はリンゴ1個とホットドックパン(中身なし)1本だけだ。



午後1時5分、能代まであと16km。と手を挙げると乗用車が止まる。能代市内まで難なく来てした。 午前1時5分〜1時28分まで。乗り込むと同時に運転者さんから質問を受ける。

「ヒッチハイクですか?」

「ええ」

「ヒッチハイクの目的は何ですか?」

目的? う〜ん、色々と答えることが出来ると思うなどと言いながら、その目的とは何なのか、とちょっと自分に向かって
も同じ質問を繰り返しながら、答えるに先立っては慎重に回答を用意しなければならない、と答える前に少しく時間を取って
もったいぶっている。いや、自分でも目的が実はハッキリしていなかったとでも言えようか。

「話せば長くなりますが・・・、」と言いながらこれからでも遅くはないかな、哲学的な考察でも始めようかなともちょっと思ったが、 車の中で哲学するのも何となく場違いを感じてしまった。

「要するに、若い時の思い出としたい」

簡潔にそう答えた。 まあ、その通りだが。



■宿は神社

男鹿半島に向かって歩いて行く。能代から入口の大曲までは13km。歩ける所まで歩いて行こう。

午後2時40分、浅内に入る。本日はにわか雨が何度となく繰り返される。その度に3、4回と雨宿り。

午後4時20分、国道左側上の方に傾きかけたような神社を見つけ、埃っぽい板張りの本殿の中に入ってここで一泊するこ
とに決めた。
 

午後5時40分、こういう所には誰も来ないだろうと見定めて寝場所を決定しているのだが、ご夫婦で見回りに来た。許可を取る。

 「もう寝る所もない、ここで泊らせて下さい」

 「火の元だけ気をつけて」

 「ええ、気を付けます」

 雨が激しく降り出す。 午後7時、寝入る。

 

 

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