平泉→陸前高田(72日目) 日本一周ひとり旅↑ 石巻→鳴子温泉(74日目)
「第73日」
■ほぼ期待通りの朝食
午前6時15分、起床。 そして、朝食。
お目当ての朝食は期待していた通り、食パンと紅茶であった。ところが若干期待を裏切られる点も発見してしまった。
先ず「ブドウ食パン」ではなく、普通の食パンだった。この変化の背後にはYH運営者側の経費(食費)節約という経営学的思いが隠されていることが察知出来るだろう、と一ホステラー独自の判断と偏見で解釈しておく。
またバター、ジャムも付け放題というわけではなく、朝食参加者一人一人への割り当て制であった。割り当て制度導入の背後にも同じような経営者の節約観念が垣間見られる
、と解釈して置こう。
紅茶は飲み放題であった。今回はコーヒーも出されていた。水は日本何処へ行っても言わば無料といったところか。飲みたいだけ飲んで行きなさい、飲み放題ですよ、と。日本だから出来ることかもしれない。
ここのYHに初めて泊まった人には朝食メニューの舞台裏、実情などは分かりようもないだろう。ところが毎度毎度のYHでの宿泊に特別の思いを込めるぼくみたいな宿泊者にとって、しかも同じYHも二回目の宿泊ともなると
「何、そんな些細なことまでも!」と部外者ならつい思ってしまうであろうことについても敏感になり、比較対照の心が活発に働き目新しい諸点を目敏く見出してしまった。
■石巻へと出発
午前8時20分、石巻へ向けて発つ。 YHは言わば沿岸奥まった所にあり、やって来た道を今朝は清清しく戻って行く。帰りの方が来た時よりも気が楽。なぜだろう、勝手を知っているからか、今回は二度目 だったので、この道はいつか来た道、ということで目を瞑(つぶ)ってもそのまま走って行けるような気楽さ、気安さが心の内にあった。試しにちょっとだけ目を瞑って走っていると、今回は海からの風は吹いていない 。そんな点にも気が付いた。朝凪(なぎ)。 午前11時、岩井先行き入り口に到着。お店の前にぼくの到着を待っていたかのごとく用意してあった、とも言えるような風情、そのベンチに腰掛け、暫し 休憩。背を伸ばしたまま座っていると、ファンタ缶配達運搬車に乗った男の人二人のうち一人がぼくを見下ろして話し掛けてきた。 「岩の間から潮が噴出しているよ!」 そうか、それは面白そうだな、とつい促されて一人でそちらの方へとちょっくら走って行った、が、どこで潮が吹き出しているのか? それらしきものは見えなかった。何だったのか。狐に化かされたかのような宙ぶらりんの気分になった。
午前11時半、そこのベンチに別れを告げ、国道45号線を悠々と走り続けた。石巻に近付く頃には周囲も薄暗くなってきて、夏が今も相変わらず続いているかの如くの半ズボンでもあったが、風切る両足が冷たく感じられた。
■石巻に到着 午後4時半、石巻駅に着く。 3ヶ月前、この町に始めてやって来たときの出来事がまるで昨日のように思い出される。3ヶ月前の日誌を参照しても良いのだが、同じ場所に来てみれば直ぐにその時の様子が蘇ってくる。 その夜、寝場所を探すということで近所の学校へ行ったり、神社へ頼みに行ったり、そして教えて貰った通りにお寺へと重い心を抱えながら頼みに行った。振り返って見れば、それぞれの場所へと足繁く通ったのではあるが、断られるという事実をこの目で、この耳で一々確認しに行ったようなものであった。 そして結局は、石巻駅のプラットホームに近い所、元所有者に見放された、一部カバーが破れ中身が丸見えだった長ソファーの上、今晩は良い寝場所を漸く見出だせたと内心有頂天になっていたのだったが、さっそくその上に寝転がり寝入るのを待っていた所、そんな慢心に針を刺すが如く、実際長い針を持った地元特産の生きた蚊の攻撃を執拗に受けて、満身創痍(実は、顔、手首、足首といった肌が出ていた所だけではあったが、)まんじりとも出来なかった。
もう我我我我慢も限界! と意を決して跳ね起き上がり、刺された手首やら項(うなじ)やらをボリボリと掻きながらも、心機一転!状況改善! を目指して併設のトイレへと想像するにボコボコと穴を開けられた汚い顔を洗いに行こうと、途中、やって来て見れば、ライトに照らし出された駅の玄関前、数人がゴロ寝していたのを発見して吃驚仰天、よくぞ地面に寝そべられる人達ぞ!と痛く感心してしまったこと、そんなことが思い出される。
さて、それでは3ヵ月後の、今日今宵は、何処で寝るとするか? 思案していたら赤い頬をした一女子高校生に話し掛けられた。 「日本一周ですか?」 「そう」 「へえ、何処を回って来たのですか?」 そんな問い掛けをしてきた。 胸がはちきれそうに大きく呼吸している、そんな青い制服を着た女の子が何ら怖じけることもなくぼくと相対するのであった。好奇心が勝っている。ぼくは東京に近い都市部に住む人間であったが、地方の、ここ石巻でも、地元の女の子が健康そうに生活をしているのを鋭く感じ取った。 「それよりも寝る場所、適当な場所ないかな? どこか知らない?」 色好い回答を別に期待はしていなかったが、試しに聞いてみた。 やはり、知らないのだ。
市街、自分で更に探し回ってみたが良い場所が見出せない。公園に行ってみよう。その方へと行き掛けたが、そういえば公園は山の上ではなかったか? 前回、重いリュックを背負って階段を登って行った。思い出された。今回は自転車も一緒だ。自転車を担ぐようにして階段を登って行っても良いのだが、階段登りは簡単に諦めた。3ヶ月前の徒労が思い出されたからだ 。
アーケードの下にやって来た。天井高く屋根が付いているアーケード商店街のどこか片隅ででも隠れるようにして寝ようかと人々が行き交う間を縫うように自転車をゆっくりと引きながら物見遊山的に歩いていると、ボーリング場が目の前に現れてきた。
■ボーリング場の駐車場隅で寝よう そうだ、思い出したぞ。前回も公園の神社へと行って断られ、帰り道、このボーリング場を見出していた。ちょうど風雨が防げるように駐車場が設けられていた。その軒下で寝ようかと自分の心と相談していた。が、戸外で人の目に大っぴらに晒すのはどうも格好が悪い、極まりが悪いという小心さ故に敬遠してしまった。 当時、まだ旅を始めたばかりであったので、いわば旅の初心者、旅慣れしていなかったとも言えよう。 今回はそこで寝ることに即決。もう旅慣れてしまった自分、初心者のレベルを通り越して、喜ばしいことなのかどうなのかは別に措くとしても、時の経過と共に旅の中級者レベルに昇進していたと言えよう。旅での一時的な恥の書き捨てだ。 駐車場の端に自転車を置き、地面には新聞紙を敷いて、その上に寝袋、中に滑り込んだ。 ボーリング場内、夜に入ってからは何か特別な大会でも開催中らしい。頭から被って寝転がっていても、聴覚はとても敏感、車が一台、一台と去来する様子が手に取るようにこの耳に届く。
■真夜中、起こされた 午前1時半頃だっただろうか、誰かの声と、誰かの手が寝袋に触れて揺り起こされてしまった。当ボーリング場の支配人だった。やはり、場所が場所であった。予想通り人目に触れてしまった。でも 自分は落ち着いたものであった。 「こんな所で寝ていると変な言い掛かりをつけられる、この辺は飲み屋が多いし、中へ入りなさい」 「断りもせずこんなところで寝ていてすいません」 そう言って謝ろうかとも思ったがそんなことを言う暇もなく追い立てられるかのように立ち上がった。 「さあ、中へ入って寝なさい」 ボーリング場の2階へと通される。
「椅子を並べて寝るがいい」 自分は招かれたお客だ、と自分に言い聞かせてご好意に従った。 今回の大会が成功したのを祝してなのか、支配人はもう一人の従業員とビールを飲み交わす所だった。ぼくも最初のうちだけであったが、寝る前に一杯飲まないかと誘われて飲む。美味い。美味い! 「腹空いていないかい?」 よくぞ、気が付いてくれました! そう、腹は空きっ放しであった。 豆腐ともやしの味噌汁、食パンにバターを付けたもの、それと鯖の缶詰が出てきた。簡単な食事は直ぐに終った。
「もう寝てもいいよ」 支配人の許可が下りた。午前2時5分だった。さっそく自分の寝袋に入り直す。 ホールの中はとても温かい、いや、寧ろ暑いくらいだ。ビールや味噌汁を飲んだ後でもあったし、腹も満杯気味、寝入れるように身動きせずにじっと横たわっていたが、それても汗の方がじわじわと出て来るかのようであった。 いやはや、二階は暖房の効き過ぎだ。閉口した。外で寝た方が快適であったかもしれない。
支配人と従業員二人だけの話し合いは直ぐ近くで続いていた。 蒸し暑く寝苦しく、この難儀さから少しでも解放されようと全身を寝袋から剥き出し、着の身着のまま、いつものことながら寝袋の上に仰向けに寝転がり直した。一息付ける自分になって、そのまま安らかな、それでもまだ蒸し暑いような寝息を吐きながら何時の間にか寝入ってしまったらしい。 二人の話しが相変わらず何時までも遠くの方で続いているかのようでもあったが、いつしか聞こえなくなった。
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