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「第82日」
19××年10月25日(水)晴れ
由良
午前9時20分、起床。
起床と同時に洗顔のためにトイレへと急ぐ。部屋に戻ってくるとテーブルの上に朝食が置いてあった。
「朝食、食べて」 娘さんが確認に来る。
「ええ、頂いております」 ブリのぶったきりを焼いたものが特に美味かった。
もう一度、朝食の献立:ブリのもつ焼き、きゅうりの漬物、大根おろし、
起床前、既に座敷の方では子供連れの運転手さんたちなどが2組、3組と次々とやって来ていて、お客さんが食事を取っている近くの所にぼくもお客の積もりで寝転がっていた。
他のお客がいるのに何時までも寝転がっているのも失礼ではないかと思い、起き上がろうかと一度ならず思ったが、温い所が好きな猫のように、目をつぶったままコタツにそのまま潜り込み続けていた。
実を言うと、起きるタイミングを考えていた。そしてさらに本音を言うと、朝食も食べたかった。昨夜はあんなにも、もう食べたくはない! と思っていたけれども一夜明けてみると、腹は元の腹
、ぺこぺこだった。
待望の朝食も終って、昨晩の続きと言うわけではないが、食器洗いを断りもせず、率先してやった。手伝うことが楽しい。食器洗いも一段落してから、ここのヌシ、ボスの奥さんに尋ねて見た。
「ここで暫く働かせて貰えないでしょうか?」
「今はアルバイトを取っていないの。それに御給料も払えないし。御給料も貰えないで働いたってつまんないでしょう(と尻上りで)。青果の方は?」
「ええ、これから行きます」
午前11時50分、ドライブインを出発する。いや、出発しようとする。
「あ、ちょっと待って、上げたいものがあるから」
御弁当であった。皆三人、ベランダまで出て来て見送りをしてくれた。別れを惜しんでお互いに涙を流した、と書くと嘘になるが、ぼくとしては何となく別れがたい思いであった。
■鶴岡市内でちょっとだけ
鶴岡に向って道路を下って行く。途中、自転車から降りて、ビスケットを食う。全く食うことばかり、この俺は。
午後1時、鶴岡駅前に着き、昨晩職業安定所の土方さんに紹介して貰った二つの青果市場にアルバイトを求めて行く。が、既に募集は終ってしまっていた。
鶴岡市内をうろつく。
午後3時、駅前から離れる。藤島を通って立川、そして戸沢へと走って行く予定だ。まあ、途中、泊れそうな所ではそのまま一泊だと思いながら走って行く。が、その適当な所がない。
■次の「ドライブイン」でも泊る
午後5時前、立川町の「狩川ドライブイン」に立寄る。外のベンチを使わして下さいと頼み、オーケーであったが、ここよりもこの先の「芭蕉ドライブイ
既に日もどっぷりと暮れた国道47号線、最上川を左側に見ながら、ではな
午後6時14分、漸くにして目的の場所「芭蕉ドライブイン」に着く。
予想に反して、と言うのか、いやいや幸運にも、2階の大広間で寝かせて貰うことが出来た。午後7時15分。
「第83日」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
19××年10月27日(金)雨時々曇り
■ 雨の一日
昨晩と言うべきか、今朝方とでも言うべきなのか、深夜午前1時半頃、雨音で目覚め、寝袋から抜け出た。店の外へと出て行った。店の裏に寄掛けて置いた自転車がズブ濡れにならないようにと店の前に移動させた。雨は朝が明けるまで降り続いた。
朝9時、寝袋からもう一度抜け出た。
雨も止んでいることだし、いつまた降り出すか分からない。降って来て足止めを食わない先に出掛けてしまおう。直ぐにもここを出発することに決めた。それでも実際に出発するまでの準備に一時間35分も掛かった。
午前10時35分、芭蕉ドライブインを離れた。
最上川が流れている。その上空と向こう側にある山々は霧で包まれ、薄ら寒さを感じる。青い暖かい空はどこにも見えない。上空の方ではチャンスを見ながら、雨を降らしてやろうか、と構えているような雲行きだ。
案の定、30分程走ってから、ポツリ、ポツリ。そしてパラパラと本降りの兆し。ああ、どこかで雨宿りをしなければ、と考えながら走り続けていると思い出した。もう直ぐ先へと行くとバス停小屋がある筈。
午前11時15分、その見覚えのある、トイレ付きのバス停小屋に到着。中に入るや否や、ザーザーと降り出し、風も横殴り、この地方にあるものは全て満遍なく濡らすのにお手伝いしているといった感じだ。
正午4分発のバスに乗るためにと雨の中を傘も差さずに一人、また一人。更には一つの傘に女の子二人してバス停小屋に入って来る。小屋の中は満員になってしまい、遅れて来た一人、二人は外で待つという盛況振り。
頬の赤い、娘さんなのか、ぼくの姿を見て何の断りもなく、いや何らのこだわりもなく、話し掛けてきた。よく見れば若奥さんのようであり、未婚の娘さんのようでもあった。好奇心丸出し。
「こう雨ばかり降り続くと嫌になりますよ。今日はここで一泊して行こうかな」
ついそんな愚痴ったことを言いたくもなるし、いや、言ってしまった。
皆、バスは今か今かと皆、待っている。バスはやってきた。皆、乗って行ってしまった。一人だけその場に取り残されたぼくは少々心がそこになかった。漸く雨は上がって晴れ間が見え出した。自転車に跨り、バス停留所「三吉神社前」を出発。
!!
午後1時半、新庄市街に入る。街で色々と店を見て回り、買物を少し。またも雨がまた降り出していた。濡れたくはないからアーケード街の下、自転車を引きながら行ったり来たり、うろうろしながら時間潰し、雨、早く止まないだろうか? 空を仰げば黒い雲が行く手を被っている。
午後3時15分、市街を出ようとする。実はもっと早く出ようと思っていた、全然当てにならない天候。国道13号線の一本道に漸く出てからも雨は前方からもろに体当たりするかのように容赦なく降り注ぐ。
何処か雨宿りをするところはないだろうか。目を皿のようにして探しながら国道を下って行く。ヤッケは見る見るうちに濡れてくる。濡れた所に風が吹き付ける。だから寒さもひとしお。早く何処か雨宿り出来る所を!
午後3時55分、国道擦れ擦れに建てられている木造の倉庫のようなもの、申し訳程度に飛び出ていた軒下に突っ立ったまま雨宿り。
雨は勢いも衰えず降り続く。トラック、バスが通過する度に、その風圧で水を引っ掛けられる。それに突っ立って雨の止むのを待っている間、半ズボンだから、日焼けした腿の筋肉も濡れて風に吹かれて、寒くて仕方ない。暗くなっても来た。
午後4時20分、少々小降りと思われた中をここぞとばかりに決断して出発。この先を行けば一泊出来そうな所があるだろうと淡い期待を抱きながら走り続けた。
昨日は夜のサイクリングであった。そして今日は、夜のサイクリングの続編だけでなく、雨に打たれながらのサイクリングというおまけがついた。
!!
午後5時10分、建設中の二階建て家屋の一階で今晩は寝ることに決める。由良ドライブインで作って貰った、四角い大きなおにぎり2個を真っ暗な中、手探りで食べた後、午後6時過ぎ、寝袋に入る。 国道沿い、車の通行音のため、うるさくて暫くは寝入ることが出来ない。戸もまだ取り付けられていない家屋であったので、開放されたままの所から遠慮なく風が吹き込んで来た。冷たい風、寝袋の中、一人寝、寒かった。
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