由良 (82〜83日目) 日本一周ひとり旅↑ 山形(85日目)
「第84日」
19××年10月28日(土)晴れ
山形 ■「もっと暖かさを!」
今は、晩秋。
その一、食パンの間にバターを塗る手間を省いてネバネバになった納豆を入れる、塗る その三、
マヨネーズ食パンの間に、更にハム等を挟む
トマトやキュウリといった野菜は付かない。今朝はこの3種類一組ずつ全部を食べた。食後のデザート、としてビスケットを食べた。ラジオは電波状況が悪く良く聞けなかった。
10分後の、午前7時50分、出発して直ぐ、バス停「芹沢駅前」を通過した。
この旅人にとっては時刻的にまだ早朝のこと、外気は冷たく、自転車を運転していても剥き出しの手がとても寒く感じられる、と言うよりも冷たく、どうしようも我慢が出来ないくらいだが、しばらくはやせ我慢していた。
ハンドルを握る両手に直接風が当らないようにとゆっくりと走らせてはみたが駄目。とうとう我慢出来なくなり、両手に菓子袋の切れ端を被せるように握って再出発。それでも今度は体全体が寒く感じられる。風邪でも引いたのだろうか。
午前8時15分、新庄から18kmの地点、何の変哲もない道路脇でヤッケのフードを被ったまま休憩を兼ねた日向ぼっこ。背に太陽光線を最大限吸収するのだ。
「我に、もっと暖かさを!」
「もっと!」
「もっと!!」
男が一人(誰のことかは分かるだろう)、国道から少し外れた所で何をしているのか、フードを被ったまま顔を覆うかのごとく、そこに突っ立っている。
道路脇に突っ立っている人影を見て直ぐ連想することは何か。運転手さんなら直ぐピンと来るのではないか。例の測定ではないだろうか、と。しかも服装を変えて身分も分からないようにしているかのようだ。
実際、通過して行くトラックやダンプカーの運転手さん達は目敏かった。見落とさなかった。ぼくの方に横目で見ながら走り去って行く。
午前9時、本日、二度目の出発。再出発とも言う。20分後、尾花沢市街を通過した、のだろうか。
午前10時、道路脇下へと降りて再び日向ぼっこ。日差しが先ほどよりは少し強く、日に当っていると気持ちが良い。
田んぼには稲切り株が沢山見える。赤とんぼが群をなして飛んでいる。
左側の山は殆ど紅葉、真っ赤に燃えている。
30分後、出発。それからはずっと走り続ける。
■午後、人に会う
午後1時、天童駅にちょっと寄って見た。一休止。蝶ネクタイ(珍しい!)姿の、おっさんが話し掛けてきた。
「山形はどうかね?」
「山形のどこが良いのさ? 人? 環境?」
「のんびりした所が良いですね。コセコセしないところが」
「山形の人間は自分さえ良ければ他人なんて、どうでも良いと考えているのさ」
「良い人もいますよ」
「そりゃあ、付き合ってみれば悪い人ばかりとは言えがな」
「山形の第一印象は悪くはなかったですよ。」
そんな簡単な会話を交わして、その場を何の未練もなく去る。
午後2時半、山形市内に着き、昨日開店したというジャスコシティの周辺はおまわりさんによる交通整理を必要とする程の混雑様だ。とにかく来て見れば分かるよ、何でも安い、ということらしい。
今晩は何処に泊ろうかとそろそろ考え始めていた。
山形にやって来た途端、急に、夕方からではあるが寒さを感じた。地形の所為だろうか、この寒さはただものではない。そう思った。公園のトイレは更衣室に早代わり、長ズボンに着替えた。
午後4時50分、山形駅に来た。今晩は駅の軒下で寝よう。そう心に決めてしまった。寝る時間が来るまでステーションデパートの中を見て回る。
■一冊の手記
本屋に吸い込まれるように入って行った。久し振りだ。偶々手にした一冊の本。ページをパラパラと捲りながら急に思い立った。
そうだ、ぼくも詩を書いてみよう!
感じたこと、思ったことを、そのまま素直に直接書き下して見よう!
そんな思いが腹の底から急に突き上がって来る。
「さよなら17才−若い詩人の手記」
――― ぼくをしてそんな気にさせた本。
17才の女の子。
自殺してしまったのだそうだが、この若い女の子が書き残した数々の詩と手記。
全部を読んだわけではないが、その一部を読んで感じたこと――、
ぼくだって心情をそのまま書き下そうと思えば出来るのではなかろうか
―― これであった。
彼女に対する、一種の対抗意識みたいなものが自分の内に湧いてきていたとでも言えようか。いや、確かにその通りだろう。しかし彼女によってぼくが目覚めさせられたとも言える。鼓舞された
。
ぼくも詩を書いてみよう!
彼女の本を偶々手にしたことで、そんな気持ちになった。
旅を続けながらも長らくそうしたいと潜在意識的には思っていたに違いない。彼女の手記が契機となって詩作への思いが噴出してきた。心の中は熱く興奮していた。
この心の内を表現したい!
むしょうに表現したい!
その場に立ち尽くし続けていた。
我を忘れていた。
さっそく文具店へ入って行った。
■ 夕食
「ヤキソバ大盛り 100円」
そんな札が目に入った。
うん、これは安い!
誘惑に負けて食堂に吸い込まれるように、そして気が付けば食卓椅子に尻を下ろしてしまっていた。
出されたものを良く見てみれば、どこに「大盛り」さんが見えると言えるのか。
見た目はこんもりとした所謂”大盛り”にしか見えなかった。注文して損した、と思えた。
「あのう〜、すいません! ヤキソバ”大盛り”を下さい!」
隣の女子高校生が食べていたのが「たこ焼き」だった。美味そう。
これまた誘惑に負けて食べてしまった。女子高校生が食べているそれを横取りして食べたわけではない。新たに注文して食べた。
今日の夕食はこれで打ち止め!
■ そして縁の下
時間もちょうど良い頃だろうと元の場所に戻ってみた。周囲を見てみると、軒下で寝られるような雰囲気ではない。あそこならば、と既に第二案として決めていた所へと行くことにした。
午後7時頃であった。
美術館。
ライトを消した車が道路沿いに何台も駐車していた中央公園の手前、近代的建築として構えていた。
縁の下で寝ることにはもう何らの躊躇もなかった。経験済みだ。
午後8時30分、今晩は「こんばんは!」と誰にも邪魔されることもなく安心して寝入れるだろう。こんな下までわざわざやって来る人はいないはずだ。腰を曲げながら、そしてくもの巣に歓 迎されながらも適当なる場所を見出し、寝袋を敷き、潜り込み、そこに仰向けになって全身を横たえる。
寒い中で、旅を続けていた。 寝場所探しも寒く、心の中まで寒くなってしまうかのようだった。 旅をするなら暖かい時期に限りますね。
|