北見市の端野(タンノ)まで走って行く。45分間。勿論、ぼくが走って行った訳ではない。ぼくは車の中、トラックが走って行った。
北見市の境界線を越えてからは、札幌ナンバーのトラックが我々の前を走っているのに気付く。赤信号になった時、運転手さんからコメントがあった。
「信号待ちの時間を利用して、降りて頼んでみたら・・・・」
そう言われれば、それも尤もだ、面白そうだ、乗り継いで札幌まで一気に行けてしまうかもしれない、ちょっと試して見よう、とドアを開け座席から滑り落ちるように車の外へと出て、実行しようとしたら、信号が変わってしまい、前のトラックは走り出す。
この車に乗れたことで他の車のことまでは気が回らず、指摘されたので実行しようとしたが、反応がちょっとだけ遅すぎたか、逃げられてしまった。結局、諦める。
トラックを降りた後、10分足らずで、ほーら、またもやって来たぞ。2台目のトラックにも乗れる。乗れてしまった。運転手さん、ありがとう。札幌まで行くとのこと。やはり広い国道でのヒッチハイクの方が心まで広くなるようで、気が楽だ。運転手さんと助手さんとの、二人の運転専門家の間に守られるように挟まれて運転台に座る。こうして高いところに座っているとまるで自分がこのトラックを取り仕切っているような気分にもなる。
トラックが石北峠(セキホクトウゲ)をこれから今、通過しようとしていると感じた時のスピードは時速20キロ、ゆっくりと重たそうに坂を上って行く。ここが極みだなという箇所、つまり峠には売店などがあり、店前にはバス、車、人などがたむろしていた。
さあ、次は下り坂だ。下りは快調。ぐんぐんと重い車体が下って行く。加速がつき始める。が、途中で急に危ない重いを、じゃない、思いをした。
高い運転台からは見えていなかった横、側面からちっぽけな乗用車がこのトラックを追い越そうとして無理矢理にも我々の前方に割り込んで来たのだった。
「何だ、あの野郎!」
どの車も加速が付いていた。トラック運転手さんの咄嗟の判断と巧みな運転さばきで何らの大事に至らなかったが、まかり間違えば衝突、またはガードレールを突き破って、谷底へと真っ逆様に落ちて行ったことだろう。
我が人生はここで一巻の終わり、第二巻は何時始まることやら、まだ決まってはいない、となっていたかも知れない。運転手さんの激怒振りは嫌と言うほど分かるのであった。
「ぶっつけてやろう! どうせ札幌まで行くんだろう、あの車!」
大雪ダム工事中の風景が眺められる。今走行中の道路上からも、この高い運転台からガラス越しに遠く、山を切り開く工事に参加しているダンプカー数台がゆっくりと行き交っている、そんな現場の情景が手に取るように見える。
■層雲峡を歩きながら見る
午後1時34分、層雲峡(ソウウンキョウ)への入り口、大函(オオバコ)で下車した。層雲峡をこの足で歩いて、この目で見たかったからである。
道路に沿って歩いている人など、この一人を除いて、誰もいない。皆、車で通過する。それでも自転車に乗って見物を試みている人に何人か会ったが、百メートル以上もある柱状の岩の並びは、物凄い。あんなにも高い。首を90度以上に傾げないとその高さを測れない。
左手側は石狩川が流れている。道路の左右、天を見上げるようにしながらも、進行方向がお留守になって、何かにぶつかったりはしないかと冷や冷やしながらも、時々は自分の位置を確認しつつ首を曲げたまま、岩肌の剥き出しがそのままずっと続く。
2時間、下り坂を歩き通して見物は斯くして終った。首が少々痛くなってしまった。
■YHでの雰囲気
午後4時、YHに到着。
ああ、ここにやって来て良かった、ほっとする、寛げて何よりだ、といったことを期待していたのに、何となく雰囲気が宜しくないと直感する。 これでは今までの良い気分までもがぶち壊しだ。冷水を急に浴びせられたような気分。
YHにも言わば当たり外れがあるみたいだ。初めて泊まる所が自分に合っているのかどうなのか、この点に付いて知っておくことも楽しい旅をする秘訣の一つかも知れない。
浴場で湯に全身浸かっている時だけだった、暫しの幸せを味わうことが出来た。気持ちがほぐれ、小さなことに拘らない元の自分を取り戻す時間であった。期待外れであったことをいつの間にか忘れて、満足が行くまでずっと湯の中で汗を掻き掻き瞑想していた。
旅館風YHではミーティングがないのが普通、それを嘆く同室のホステラー。夜は何も起こらない。自分たちだけで時間を潰してくれ、ということだ。皆と一緒に歌い、ゲームをして若さを発散させることもない。層雲峡のYHでは楽しく泊まることができました、という思い出も作れない。気持ちが癒(いや)されない。彼の気持ちは良く分かる。
ぼくは温泉の中で大きくなった心で、そんな彼の立場に同意を何度となく表すのであった。
本日、実は旭川まで行く予定であった。温泉は別にしても、このYHに泊まってしまったことで何か無駄なことをしてしまったように感じていた。YHの第一印象はやはり払拭し切れなかった。
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