山形 (85日目)  日本一周ひとり旅↑  上ノ山(87日)

「第86日」

    19××年10月30日(月)晴れ

                                   山形→ 上ノ山


午前8時半、起床。

山形市内にこのままもう一泊したいという気持ちも多少はあったが、ここは実に寒い所だし、どうも見るべきものもないようだし、、、、、寒さから逃れたいので、今日は山形を出よう――、一つの場所に長くとも二泊がちょうど良いようだ。


縁の下での朝食、もう一度、これで最後だ。
簡単なパン食であった。多言は要しまい。無言で食べ続けていた。

さてと、食事が済めば、出発するしかない。腰を屈めながらの準備であった。そうせざるを得ないほどの縁の下の高さ、つまり低さ、いや狭さ。高いといっても背が立つ程の高さではない。

午前11時前、準備も漸くにして終り、縁の下から出て来る。準備中腰を屈めっぱなしにしていたので、縁の下からやっと解放された後、痛かった腰をゆっくりと伸ばす運動だ。腰も介抱されなければならない。広いところに出て来て、久しぶりに開放された気持でもあった。

 


「職安」にちょっと寄る   

さて、これから何処へ行こうか。動きたくない思いが頭の隅にまだちょっとあったが、山形でもう一泊ということは考慮外だ。暖かさを求めて少しでも南下しよう。

前々から一度訪れてみようと思っていた所、公共職業安定所(いわゆる、職安、当時)を訪れることにした。午後1時半〜午後2時20分。

何か良いアルバイトでもないだろうか。別に大きな期待を抱いていたわけでもなかった。職安とはどんな所だろうかと兎に角一見するだけでも良いだろう。

静岡でミカン狩のアルバイトがある。今年一杯までと来年3月一杯まで、二つがあった。静岡にまで行ってアルバイトをする余裕はない。

職安の次、市内のデパート巡りをした。

午後2時30分、山形駅前を発った。山形もこれで、おさらばだ。

次ぎの市まではそんなに遠くはない。国道13号線をゆっくりと走る。ダンプカーやらトラックが擦れ擦れに通過して行くのを嫌だなあ、危ないなあと思っている。

 


「斎藤茂吉記念館」にやって来る   

上ノ山に入った。と、斎藤茂吉記念館へと通じる道路がある。別に積極的な気持ちからというわけでもなかったが、序に見に行ってみようか、という思いに促されてその道へと方向を変えた。

橋を渡って行く。紅葉も綺麗だし、向うの山並みは蔵王かなと思っていたら、蔵王は更に向う側とのことであった。

紅葉、紅葉、どこも紅葉だ。
足許は枯葉で一杯、足の踏み場もない。
全てが落ち葉で被われている。

記念館の建物は近代的であった。
今日は休館日であった。

受付窓口前にベンチが2つ、

建物にくっ付いた東屋のような造り、

左右は吹き抜けだが屋根もある。


ここで一泊しよう、

即決、

もう動きたくなかった。

 

 

 

午後4時40分、

誰もいないと思っていたら、

館内から男の人が一人出て来る。

ちょっと驚いたが、直ぐに我を取り戻し、

この時とばかりにその人に話し掛け、宿泊許可のごときものを直ぐに取る。

オーケーであった。

もう薄暗く、外では寝るほかにやることがない。

でも腹が減っていた。、

暗い中、目隠しされたかのような、手探りで夕食のパンを食べる。


午後5時20分頃、

さっきの男の人、戻って来てぼくのために親切にも電灯を点けてくれたのか、

明るくなり有難く感謝だと思ったのだが、暫くして消してしまった。

いや、消えてしまったのか。

早く寝ろ、ということだろうか。

別にぼくのことに関心があるわけでもないようだ。

暗くて足元が見えないから電灯をつけただけだったのだ。

ぼくの深い思い込みでしかなかったようだ。

 

 

午後6時頃、ベンチに寝袋を敷いて、その中に潜り込む。


寝入るまで夢を見ていたのか、寝入った後の夢だったのだろうか。

ある想念が念頭を過ぎっていた。


―― 旅に出た ――

ある日、

机に向かって

考え事に耽っていた。

 

「そうだ!」

 

「そうしよう!」

 

「出よう!」

 

「出よう、出よう!」

 

「旅に出よう!」

 

「旅に出るのだ!」

 

そんな思いが沸々と湧き上がった。

震えた、こころが。

 


出発準備に取り掛かった

リュックサックを買いに街へと行った

カメラも帽子も、それから、思い付くもの、

あれもこれもと

次から次と

少々高いものでも旅に必要だからと

買い揃えた

 

これから、旅に出るのだ

 

早く出よう!

 

 


出発の日

朝4時ごろ、既に外は明るかった 

でも人はまだ出歩いていなかった

 

その日、また暑い日が始まろうとしていた

リュックサックを背負った

どっしりと重い、

恰も毎日の出勤の如く

家のドアを静かに開け

出て行った。

 


一枚の紙切れを机の引き出しの中に残して・・・

「北海道に一二ヶ月旅に出ます」


 

今、旅先にいる。

終に旅に出た!

煩わしい思いの全てを切り捨てて

思い切り

旅に出たのだった


ただ自分一人が頼りなのだ

なぜかこの震える心に言い聞かせながら

旅に出たのだった

苦しいこと

楽しいこと

辛いことも

面白いこと

色々とあるだろう、

 

期待と不安、色々とあった

一人旅

一人旅

色々と

見た

聞いた

話した


自分の心の内を素直な気持ちで見つめたかった

旅に出た


自分のための旅に出た
 

 

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