モルフィカ 北欧からの家具
スウェーデン編
No.25」 何? 老夫婦はこの日本人を養子に迎える積りだって!?
No.27−1」スウェーデンはもう9月! 濃霧の中、朝の出勤、自転車でゆっくりゆっくり
No.27ー2」スウェーデンの女の子たちとスウェーデン語で話せた!
No.29 」ノルウェー娘がまたやって来た! えっ、18才なの!?
海外へ無料で行
ける極秘マニュアル
No.39
」
レストランでの仕事が出来る日は今となっては、土曜日と日曜日だけ。
No.41」Festに参加。真夜中の道、一人で歩いて帰った。
|
スイスから返事が届いた ヨーロッパひとり旅 ↑ ノルウェー娘との微妙な人間関係
No.43 ■はじめてだった、ヨーロッパ(スウェーデン編)ひとり旅■
19xx年10月28日(月)曇り、雪
先週の土曜日、仕事は午後6時からの開始ではあったが、午後4時過ぎ、既にレストランの建物の中に入っていた。食事室に一人。ラジオをつけた。夜の就業時間が来るまで、固いマサージ用ベッドの
上に足を組んで寝転がっていた。
レストランにやってきて、仕事が出来る。それがうれしい。就業時間が待ち遠しい。
あと一時間もすれば、階下へと降りて行って、仕事開始だ。そう思うと寝転がっていることが惜しい。すぐにでも仕事に就きたい。そんな気持に襲われる。
レストランに出勤したと同時に直ぐにでも仕事を開始したい。そんな思いを抱きながら毎週の土曜日、レストランに出勤だ。
実は仕事などは口実に過ぎない。今となっては彼女たちに早く会いたいのだ。早く確かめてみたい。今晩は誰が来ているのか? モッドだろうか。インゲラも一緒だろうか。それとも他の女の子もか。彼女たち一人一人を想像する。楽しい。
誰がやって来ているのかは現場の仕事場に実際にやって来て見なければ分からない。階下へと降りて行って、仕事場に立つ。そこで初めて知る。今晩は誰が来ているだろう?
午後5時を回った。待ちきれない。思いが募る。階下からは皿と皿がぶつかり合う音がここまで聞こえてくる。早く来い、早く降りて来い、と催促しているかのようでもある。今晩は誰が働いているのだろう。
午後6時になったら仕事を始めることに契約で決められていたが、もう待ちきれない。恰も取り付かれたかの如く衝動的に起き上がり、マッサージ用マットから降り、ラジオのスイッチを切り、蛍光灯のスイッチも切って、階下へとタッタッタッタッタと駆け足の急行列車だ。今晩に限ったことではない。先々週もそんな待ち切れない思いで一杯であった。だらか規定時間よりも早く仕事場に姿を現してしまう。
同じレストラン内、直ぐ近くには彼女たちが今、あのような音を立てながら働いていると知らせてくれているのに、どうして一人でゆっくりと構えていられよう。直ぐにでも確かめたい。
でも、タイムカードの時刻を考慮に入れなけばならない。一時間も早く刻印されたタイムカードを見た事務所の女性はどのようなことを考えるか。
一時間も早くやって来て本当に仕事をやっているのかしら?
年の上でも熟練の彼女に余計な疑惑を持たす必要はない。遅かれ早かれ時間は黙っていてもやって来るのだ。辛抱強く待つことにしよう。
毎週土曜日の夜の仕事の開始は先ず夕食を取ることからだ。腹ごしらえ。料理場へと赴いて、自分が食べたいその日の料理の一つを自由に選べる。コックの一人に夕食を食いたい旨を伝える。直接料理場への中へと入って、そうするときもあれば、ウェイター、ウェイトレスたちがそうするようにカウンター越しにそうするときもある。どちらにするかはその日、その夜の気分による。
誰が来ているのか、遠くの方から観察してみよう。これからの楽しみをちょっとだけ長引かせようとしている。
この5日間のブランクは彼女たちをどう変えたか。既に何度も会っている女の子に対してさえもまるではじめて会うかのような気持だ。何度会っても彼女たちとの間には何かつながらない。先週の自分も、先々週の自分も今週の自分も同じ自分であるのに。
彼女たちはヒロとはいわば無関係に毎日を生きている。ヒロの目の届かないところで彼女たちは生きている。でも時々、彼女たちの毎日の生活振りを知りたいと思う。自分がこうしてスウェーデンに滞在しているも、それが目的の一つになっているのではないのか。彼女たちとは毎日会っているわけではないが、彼女たちを通してスウェーデンを理解できるのではないのか。
彼女たちはいつ会っても、同人物には映らない。ヒロに対して彼女たちがどのように現れてくるのだろうか、それは予想できぬこと。故に心が興奮する。
遠くから偵察するかのごとく眺めやったが誰が来ているのかはっきりとは見えない。彼女たちが働いている場所の横を通って、フォーク、ナイフを取りに行くことにした。
「Hej!」ヘイ! やあ!
ヒロが挨拶する前に、彼女の方から率先して声を掛けて来た。自信に満ちた声だ。何が起こったのだろう。声だけではない。顔が合ったとき、一瞬、誰だろう
、と判断が遅れた。新しい知らない人が働いているのか、と思ってしまったほどだ。
インゲラだった。自分の顔に入念なお化粧を施していた。厚化粧に見えないこともない。金髪、そして全てが逆立てられているかのように櫛が入っている。
面白いヘアーモードだ。背を高く見せようとしていたのか。とにかくお化粧に相当の時間を割いていたことが想像される。
インゲラは快心の笑顔を見せながらヒロに挨拶をした。珍しい。とても珍しい。自分の容姿についてより一層意識し始めたかのようであった。
「Hej!」
ヘイ!
ヒロも若干遅れを取ったかのように答えた。
* *
食後、直ぐに仕事に取り掛かった。午後6時過ぎだった。通例、土曜日、夜の仕事を始める頃、それまで継続して働き続けてきていた彼女たちはこの時刻になると休憩を取る。が、その日は取らないようだ。ヒロが仕事に来る前に既に彼女たちは充分な休憩を取っていたのかもしれない。
何時間か仕事から離れていたためか、それとも意識がいままで別のところにあったためか、ヒロは仕事の勝手を失ってしまったような感覚。仕事が手に付かないといった風である。
午後8時になったら休憩を取ろう。自分に向かって伝えていた。
全身をすっぽりと包んでしまいそうな特大気味の前掛けを首から外し、両手をきれいな水で洗って、リンゴ水を飲むことにした。数個の氷の塊を入れた別のコップを持ってくる。
椅子に腰掛け、コップを時々口に運びながら一人で休憩を取り始めた。甘い。冷たい。まさに休憩を享受している気分を味わっている。と同時に、手持ち無沙汰をも味わい始めている。何かが足りない。
そう、そういうことなのだ、一人だけで休憩を取っている。物足りなさ、不足感。手元にタバコでも持っていればそんな気分も慰められ埋め合わされたであろう。が、そのときに限ってタバコは持ち合わせていなかった。
その手持ち無沙汰を帳消しにするかのごとく懐から手帳を取り出し、少し書き入れる。そして、さらにページを繰って眺める。今までどのようなことが起こったか。印象的な出来事などをメモしていたのだが、そんなことを読み返すともなく目を通している。気が抜けたかのようにそこに一人で腰掛けていることの味気なさを少しでも忘れようとして
。
ドリンク用のコップを取りに行こうとした時、実は彼女と既に擦れ違っていた。彼女の目の前に現れたということはこれから休憩を取るよ、とい
うヒロからのシグナルでもあった。
「一緒に休憩を取らない?」と声を大にしては言わなかった。どうしたか。擦れ違ったが、ヒロは彼女のことは眼中にないといった風に無視するかのように、そのままコップが置いてある場所へと足早に急いだ。と、彼女
は下からヒロの顔を探るかのように覗き込もうとした。目と目が会った。一瞬、ほんの一瞬の出来事であった。その一瞬の刹那でヒロの全体を捉えようとするかのような、茶目っ気を含みながらも、鋭い眼差しはヒロに
何かただごとならぬ印象を与えた。が、それでもヒロは敢えて無視し続けた。
「Är du TRÖTT!? ねえ、疲れてるの!?」
19xx年11月3日(日)曇り
彼女を揶揄するようかのような調子でヒロは彼女の方に言葉を投げかけた。彼女は応じない。
我を取り戻したのか、彼女もこちらの方へとやってきて自分で破片を拾い始めた。ヒロの足元にも転がっている、口元が欠けたコーヒーカップを一個を拾い上げた。
ノルウェー娘は破片を全て拾い、ゴミ入れに捨てた後、自分の仕事場の方へと姿を消した。手ぶらで戻ってくる。タバコを一本取り出し、ライターで火を点ける。ライターをテーブルの上、元の場所に置こうとする。と、こんどはライターを床に落としてしまった。
「あんたは本当に疲れているね!?」
「えっ?」
「二度と言わないよ」
「言いなさいよ。何と言ったの?」
「あんたは本当に疲れているんだよ」
”本当に”、を強調する。彼女はうなずく。
「こんどは自分の命を落とすかもしれない」
「Nej,Nej」そんなことはないわよ、と彼女は強く否定する。
ヒロは彼女に笑顔を見せ、心に余裕を感じながら相対する。ヒロは軽い気持で言葉が発せられる自分を感じている。彼女とは一ヶ月以上、言葉を交わしていない。一ヶ月ぶりに会い、話し掛ける言葉を探していたが、それが大きな音を立ててコーヒーカップが床に雪崩落ち、彼女が落としてくれたお陰で、そんな一ヶ月間の空白期間も木っ端微塵に消えてしまった。
ノルウェー娘がヒロの方に顔を向けて質問開始。
「Fest は楽しかった?」
ちょうど一週間前に催された Fest。彼女も参加していた。女の子たちは皆、思い思いに素敵に着飾って来ていた。彼女、ノルウェー娘もとても魅力的だった。
何故そんなことをノルウェー娘は尋ねるのだろう? ヒロはどう答えようかと一瞬考えている。と同時に、質問の裏に隠されていると思われる言外の意味を探ろうとする。無駄、無駄。分からない。
ノルウェー娘はヒロに無関心ではいられない何かを発見したのだろうか。質問にどう答えるべきか、依然戸惑いながらも口を開いた。
「最初のうちは確かに楽しい、と思った。でもたくさん飲んで酔っ払ってしまったので、あとはわからない」
「酔っ払って、帰りはどうしたの?」とノルウェー娘。
「歩いて家まで帰って行った」
「全行程を歩いたの?」
「そう」
「足をもたつかせながら歩いて行ったのでしょうね?」
「外はとても寒く、歩いているうちに酔いも覚めてしまった。真っ直ぐ歩いて行けたよ」
実はちっとも楽しいものではなかった。確かに酔った。でも泥酔ではなかった。酔っても別に楽しいものではなかった。悪酔いであった。Fest
に参加していながら、実は参加していなかった。楽しめなかった。
どうしてこんな面白くもない会話をしなければならないのか。心の中で不満を感じている。彼女と交したい会話はそんなものではないのだ。別の事柄にあるのだ。
「ねえ、いつになったらわれわれ二人はそんな会話を交し合えるのだろう?」
声に出しては言わない。
口の中で聞こえないように反芻している。
手にしたグラスの表面を自分の爪でお互いに引っ掻き合っているようなわれわれ。グラスの表面は固く、引っ掻いても何の変化も見られない。そのグラスを夜の照明にかざして眺めても透明であることに変りはない。
君は知っているのだろうか、そんな状態がもう一ヶ月ほど続いているということを。しかし君は意に介していないようだ。そんな君の様子をそれとはなしに観察している。
満足の行くように語り合えないわれわれ。勿論、原因の大半はヒロのうちにある。ノルウェー娘と対等にスウェーデン語がまだ喋れない。全てを理解出来ていると錯覚して、時々、ノルウェー娘はある事柄を説明する。
"Jag verstår inte!" 君の言っていることは分からない!
そう言われた君はさらに話を続けることはしない。会話は中断、いや、終了してしまう。説明的な会話は発展しない。発展性が見られないかのようなわれわれの関係。
|
スイスから返事が届いた ヨーロッパひとり旅 ↑ ノルウェー娘との微妙な人間関係