海外へ無料で行く極秘マニュアル

毎回、ドイツ語新聞記事を読む、楽しむ


オーストリアからのメール 

 

 

スウェーデン編

No.22」スカンディナビア半島、ノルウェー海岸線を南下する

No.23」スウェーデンの民家で滞在することになる

No.24」日曜日、スウェーデン語を早急に喋れるようになろうと意思する

No.25」 何? 老夫婦はこの日本人を養子に迎える積りだって!?

No.26」隣の町Östersundで仕事を得た。

No.27−1」スウェーデンはもう9月! 濃霧の中、朝の出勤、自転車でゆっくりゆっくり

No.27ー2」スウェーデンの女の子たちとスウェーデン語で話せた!

No.28」仕事になれようとする。とても短い夏だった。 

No.29 」ノルウェー娘がまたやって来た! えっ、18才なの!?   海外へ無料で行 ける極秘マニュアル

No.30」職場での女性従業員たちとの交流

No.31」ダンスに招待されてしまった。さて、どうする?

No.32」レストランでの仕事は終わってしまった。

No.33」ノルウェー娘との交流

No.34」居住ビザ取得申請へと動き出す

No.35」ダンスのことを書く? 

No.36」レストランから電話。また働ける!

No.37」お呼ばれ

No.38」ふざけ合い、

No.39 」 レストランでの仕事が出来る日は今となっては、土曜日と日曜日だけ。

No.40」好きな人? こうすることの出来る人?

No.41」Festに参加。真夜中の道、一人で歩いて帰った。

No.42」セシリア(スイス)から絵葉書が届いた。

No.43」週日5日間は苦痛、週末2日間は喜び

No.44」ノルウェー娘との微妙な人間関係

No.45」食事室で英文学を読む

No.46」ねえ、それ、美味しい?

No.47」スウェーデンを去る日が 間もなく

No.48 スウェーデンに住んだ

 

 「それは上手く行くでしょう」  ヨーロッパ一人旅↑ 空気の抜けた風船のよう

 

             No.38 ■はじめてだった、ヨーロッパ(スウェーデン編)ひとり旅■

 

      19xx年10月15日(火)晴れ後薄曇 

 

契約では一ヶ月間ということではあったが、担当の女性が病気で仕事に出て来れないということで、追加的に仕事を続けることが出来た。昨日までであった。 ちょうど10日間である。相変わらずの、流し台での食器等の洗い物とタイル床の洗浄であった。

モッドを始めとする仕事の仲間達に会えるからこそ仕事が楽しく出来るのだと思う。会うだけではない。スウェーデン語はまだまだ充分とも言えないが、 それでも彼女達とそれなりに話し合えることも一つの喜び、楽しみなのである。

この楽しみをいつまでも持ち続けていたと思う時がある。レストランでの仕事が出来る日のヒロはそこへ行って、会って話せるという考え、思いを抱くことによって満足感が得られる。 実際、そこに行って、会って話している自分を以前には想像さえも出来ない自分であった。

我々はスウェーデン語で“充分に”話し合うことが出来るようになってきた。少なくともヒロは、と言い換えた方が正しい。 彼女達は当然ながら、自由自在にスウェーデン語が繰れる。彼女達の母国語はスウェーデン語。 ヒロは遅れて来た人として、それは外国語である。



朝、レストラン内、お客がやって来る前、開店準備で中では忙しく立ち回っている。仕事の仲間達がいつもの通り開店時間に間に合うようにレストラン内を整理整頓している。

ヒロはと言えば、キッチンのタイル床を洗い流すことに精出している。この洗い流しに約一時間ほど掛かった後、今度はモップで拭き取る。大きなキッチン内 、一人で仕事をしている。仲間ではないが仲間のように気分にさせてくれるラジオからは朝の放送が流されている。 他の仲間達は他の場所でやはり同じ時間帯、割り与えられた、担当の仕事をしている。皆、開店時間までにやり終えようと努めているのだ。

床の掃除が終わって、午前8時ちょっと過ぎ、コック長が一人でキッチンにやって来る。コック長の出勤。今日一日の仕事の準備がコック長によって行われようとする。キッチンに先に来ていたヒロは彼に会うことになる。

Hej!

Hej!

コック長が先に声を掛ける時もあれば、ヒロの方が先に声を掛けることもある。その時の出会いは同時に掛け合うといった方が正確な時もある。

それだけである。両者間に言葉が更に続いて交わされることは殆ど無い。朝の、短い挨拶を交わすだけ。お互いに同じキッチンに来て、仕事の内容は違っていても、働く立場にはある。

ヒロは洗い物の準備に向かったり、トイレに向かったり、ヒロにとっての今日一日の仕事の準備をする。それも約一時間ほどの時間 が掛かる。

午前9時前後、皿洗いの女の子達がやって来る。トーストとコーヒーの準備が彼女達によって行われる。仕事の仲間達はヒロを含めて皆、食事室へと向かう。モッドがやって来る。 ヒロは彼女に会えるのが楽しみになってしまった。しかし、我々二人の朝の出会いは、その日その日によって異なる。

彼女はヒロの名前を発音出来ない。ヒロの名前を呼ぶ代わりに、彼女はヒロにとっては森の中の鳥になる。大きなキッチンだ。どこに ヒロがいるかはそう簡単に見出すことはできない。その意味では色々な料理用の器具等もあって森の中の混雑振りのようでもある。彼女は鳥を追う女狩人と言ったところか。

「ホーホオー」

彼女のヒロに向かっての、朝の挨拶である。彼女はヒロに応えて貰いたいらしい。が、ヒロは一度では応えない。何らの反応も得られない彼女は繰り返す。

「ホオーホオー」

ヒロは彼女に向かって同じようには応えない。ホオーホオーとは言わない。 ヒロは彼女が出勤してきていて、今日も一日一緒に働けるという考えに一人満足感を抱きながら、ほくそえみながら、見えない所で相変わらず自分の仕事を続ける。

そうしながらもヒロは彼女に会って見たくなる。彼女はレストラン、別の一隅で多分、コーヒーの準備をしているのであろう。あんな風に呼び続けていたからには ヒロに用があるに違いない。そんな風に思われてくる。そう思い始めると、ヒロは仕事をそのまま続けていることが何か、彼女を無視しているかのようで落ち着かない。 彼女の所へと仕事の手を休めて行くのである。

Hej!

彼女に向かって声を掛ける。

Hej!

彼女は応える。そして続ける。

「どうしたの? あんた、今日は内気なの」

彼女は明るいダイダイ色と白色の格子縞のワンピースを着ている。ノースリーブ。カウンターの奥の方、椅子にどっかりと腰掛けてタバコをゆったりと吸っている。その様子は酒場の女給仕を連想させる。

朝の静けさの中、すぐ横にはコーヒーの一滴一滴、ポタリ、ポタリと音が聞こえるかのようにフラスコの中に落ちている。

「どうして?」

彼女に聞き返す。

彼女は別に、といった風に質問には答えず、そのままコーヒーが出来上がるのを待っているかのようだ。

ヒロは思い出した。今度はヒロの番だ。先日、午後の小休止の時、彼女は ヒロの背中に氷の塊を一個入れようとヒロと争った。ヒロは抵抗した。インゲラが涼しそうな顔をして我々二人、男と女の戦いを眺めていた。 モッドの腕力、何と強かったことか! 腕力に屈してしまった。

「助けてくれ!」

ヒロは叫んだ。

インゲラは腰を降ろしたまま、思わぬ出来事が見れるのを楽しんでいるかのようであった。笑い出してしまうのを押さえたような涼しいそうな顔。氷の塊は ヒロの背中に入れられてしまった。ヒロは咳き込みながら椅子に腰掛けた。女性二人の笑いを誘った。


ヒロは密かに氷のかけらを取りに行った。先回のお返しだ、復讐だ。

何気なく彼女、モッドの前にやって来る。

「何をしているの?」

彼女に悟られないようにそれとなく聞く。目の醒めるような色物のワンピースは彼女の肌にぴったりと張り付いているようで氷の塊を入れる間隙がない。それでも襟首をつかんで機会を捕らえて入れようと する。彼女は気付いてしまった。用心し始めた。

諦めずに何度も機会を窺っていた。そしてとうとう成功するのであった。ヒロはすぐ彼女の前から姿を消した。やってしまった後で少々後悔した。悪いことをしてしまったのではなかろうか。ふざけあうにも程があってしかるべきだろう。彼女は何歳か年上である。年上の女性に対して礼を失した振る舞いをしてしまったのではなかろうか。

コーヒーを作っただけで食事室には現れなかった、その日の彼女。ヒロの危惧は募った。ヒロは朝食を取りながらも彼女のことが気に掛かった。どうして朝食に来ないのだろう?

食事を終え、仕事場へとひとりで戻って行く途中、壁の曲がり角、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 アアア

突然の大声に愕きたまげて腰を抜かしてしまった。床にひっくりかえってしまった。壁の反対側で待ち伏せしていたとは!

 

 

                                「それは上手く行くでしょう」  ヨーロッパ一人旅↑ 空気の抜けた風船のよう