スウェーデン編
No.22」スカンディナビア半島、ノルウェー海岸線を南下する
No.24」日曜日、スウェーデン語を早急に喋れるようになろうと意思する
No.25」何?老夫婦はこの日本人を養子に迎える積りだって!?
No.27-1」スウェーデンはもう9月!濃霧の中、朝の出勤、自転車でゆっくりゆっくり
No.27-2」スウェーデンの女の子たちとスウェーデン語で話せた!
No.29 」ノルウェー娘がまたやって来た! えっ、18才なの!?
海外へ無料で行ける極秘マニュアル
No.39
」
レストランでの仕事が出来る日は今となっては、土曜日と日曜日だけ。
No.48」スウェーデンに住んだ
メールマガジンで不定期に綴っております。
スウェーデンを去る日が間もなく ヨーロッパひとり旅 ↑ スウェーデン最後の日、その晩
No.4
8 ■ はじめてだった、ヨーロッパ(スウェーデン編)ひとり旅
■
19xx年12月1日(日)曇り →Helsingborg
午前8時、起床。
いつまでも気の済むまでもっと長く寝転がっていたかったが、朝9時には迎えに来るとの約束をしたので、やって来たらすぐにでも出発出来る準備をしておく意味からも、時間前に起き
上がってしまった。
荷物をまとめてしまってからは、今か今かと待っていた。
午前9時半前、ブザーがなった。彼一人でやって来た。彼女は車の中で待っていた。彼女と彼の二人、ドアの前で写真を一枚撮らしてもらった。そして出発だ。E4まで、ヒッチしやすい場所まで乗せて
来て貰った。Tack så mycket!
どうもありがとうさん!
今、道路脇を歩いている人が一人いる。勿論、日本からやって来ていた旅人一人。静かな日曜日の朝。「昨日よりも寒い」と彼は車の中で言っていた。冬だから寒いのだ。道路脇を
暫く歩いていたが、この寒さに促されてか、本来の自分を思い出し、さっそくヒッチを試みることにする。右手を、その親指を立てて、向かって来る車に差し出すのである。
数台が群をなして走ってくる。その中の一台が列から逸れ、前方に止まった。乗せて貰えるようだ。そう思った。気分が良い。荷物を両手に下げたまま、車の所まで走って行った。
「Helsingborg ヘルシンボリ まで行きますか?」
「Malmo マルモ まで行く」
Helsingborg まで
は今日中に、一気に行ける。そう思った。幸運であった。一回目のヒッチの試みで、しかも、自分が望む目的地までノンストップで行けるのだ。正に幸運であった。昨日、雪の中を歩きながらヒッチハイクに苦労したことが、このことで帳消しにされるかのようだ。
青い空が広がる。太陽が真左から我々を照らす。眩しい。
「今日は本当にいい天気ですね」
運転手さんも同意を表す。
しかし午後からは霧が掛かってしまい、視界は道路上に限られてしまった。時速120キロ、時に130キロで車はE4を走り通してゆく。交通量は殆どない。思う存分に車は疾走してゆく。
誠に長い長い道中であった。我々は漸く Helsingborg に近づきつつあった。ヒロは初めのうちは極力スウェーデン語で喋り続けていたが、長時間腰掛けていることに疲れてしまい、口も疲れてしまい、いつしか黙り込んでしまった。車の進行方向、前方をただじっと見守りながら、車が目的地に到着するのを待つ
不動の姿勢であった。
19xx年12月2日(月)曇り
今、ヒロは Helsingborg の図書館の中で
今日一日を過ごしている。
しきりに船の汽笛が鳴り響いている。海は目と鼻の先にあり、海上は霧に被われているのだろう。
昨日、午後、Helsingborg 中央駅前に、車から降り立った。ヒロの耳にやって来た音はこの汽笛であった。とうとう、やってきてしまったか、やってきてしまったのだ。スウェーデンの端の端までやって来てしまったのだ。ここからデンマークまでは目と鼻の先だ。多くの人たちがここから出発して行ったことだろう。ヒロもここから船に乗ってデンマークへと渡って行くのである。スウェーデンを去ってしまうことに対する
無念なる思いが心の中にある。心の思いにも拘わらず、体はもう直ぐ近くまでやって来てしまっている。
残念だ。去りたくはない、去りがたい、でも去らなければならない。 一方、目を転じてみると、目の前、机の上にデンマークの地図を広げて、デンマーク国内をどのルートを取って旅しようかと案を練っている。スウェーデンを去らなければならない。明日か? それもと明後日か? E4を通って、すぐにでもドイツへと行ってしまうことに対する反発心が
少々ある。
デンマークの首都、コペンハーゲンに二日ぐらいは滞在するであろう。冬という季節に旅する、寒い冬に旅せざるをえなくなってしまったヒロ。何が起こるものやら事前には知るよしもない。ヒッチハイクで人に会って話しては・・・・口癖のように繰り返している。
これではまるで夕方ではないか。いや、一日中、夕方である。どんよりとして暗い天空。Helsingborg の街に覆い被さっている。
冬のスカンディナビアにあっては人々も景色も、そしてそこにやって来ているヒロの心も重たくなるかのようだ。燦燦と輝く太陽が見たい! 到底見ることが出来ない
だろう、スカンディナビアにいる限りは無理だろう、だからスウェーデンを去るというのか。暗い。暗いのだ。これが北欧特有の冬の空模様なの
だろう。自分の意志ではどうしようもない。そう思った。全てが灰色じみている。暗い。暗い
。
今こうして机に向かって書いているヒロ。ちょっと目を離して、回りを見回してみる。観察してみる。閲覧室の中には個人用の机がある。たくさんある。横に5列、斜(はす)に据えられている。縦に10列だろうか、それぞれの机には一つ一つ
専用のランプが設置されている。それほどにも暗くなるのだ。今、夜ではない! 今、夜ではないのだが、暗い。光を! もっと光を!
スカンディナビアの冬はこんなにも暗いのだ。目も心も明るくしてくれるものが必要だ。利用者はランプのスイッチをひねる。室内、このランプなしには読み物も、書き物も
殆ど無理というものだ。室内は室外、つまり街と同様、暗い。
ヒロは今、ランプの光で照らし出された机に向かって筆を執っている。暗い中、そこだけがスポットライトが当てられたかのように明るく照らし出されている。北欧のロマンチックな物語が綴られている? そうかも知れない。そうでないかも知れない。
この室内、今、何人いるだろう。いくつのランプが光っているか。点々としている。数えてみると、8つあった。 午後3時過ぎだ。気がついてみると、汽笛の鳴りは止んでいた。静かさが戻ってきていた。時計を見ない限り、今、朝なのか、夕方なのか、それとも夜なのか、判別しがたい。一日中暗い。一日中、暮れている。
外は雨が降っていた。建物の窓から明かりが漏れていた。雨で濡れた Helsingborg の街
を想像する。耳を澄ましている。そうすると自動車が通行する音が微かに聞こえてくる。暗く静まった街ではないようだ。
明日、もう一日、ここ Helsingborg に滞在しよう。そしてもう一日、ここ図書館にやってこよう。そう思っている。青空が見られることならば、Helsingborg の街を彷徨するのも良いだろう。あと一日だけ、自分自身にスウェーデン滞在の機会を与えよう。
そうすればスウェーデンを去るということに踏ん切りがつくだろう。デンマークは目と鼻の先に横たわっている。既に近くまでやって来てしまった。新しい国が待っている。
スウェーデン語が話せるのも、あと一日だけ。図書館、受付の女性にスウェーデン語で話し掛け、尋ねてみた。
「ドイツでスウェーデン語の雑誌を読むことは出来ますか? 」
「つまり、スウェーデンの雑誌を見出すことは出来ますか? 」
「私は明後日、スウェーデンを去るのですが、スウェーデン語までにサヨナラはしたくないのです。スウェーデン語を引き続き読みたいのです」
彼女はそれが出来るでしょう、と個人的な意見を表明する。
別に詳細を訊きたかった訳ではなかった。人とスウェーデン語を話してみたかっただけ。ヒロは自分の席に戻る。
暫くすると彼女がヒロの所にやってくる。何ごとかとちょっとドキリとしたが、分厚い書物を重たそうに両手で抱えるように持ってやって来た。ヒロのことを覚えて置いてくれたのか。自分の机に向かっていても何か特別のことをやっているわけではなし、いわば
スウェーデンでの最後の時間つぶしのようなものと考えられないこともない。そんなヒロの様子を見て取った司書は、「この本でも読んだらいかがですか?」
とヒロの所にわざわざ持ってきてくれたのかと一瞬思ったが、見るとドイツにおけるスウェーデン語雑誌の分布状況が記されていた。彼女は自分の仕事を忠実に成し遂げようとしていたのだ。プロだ。
彼女の個人的な意見はこれで証明されたのであり、彼女はそれをヒロにも知らせてくれたのであった。
「そうですか、それを知って嬉しいです」
ヒロは彼女にお礼を言った。彼女はその重たそうな書物を持って持ち場へと戻って行った。ヒロはまた一人になった。
出来るだけ多くの機会を捉えて、スウェーデン語を喋っているヒロであった。街では道行く人に道を尋ねてみる。地図を持って歩いて行くのだが、人に訊いた方が手っ取り早い。しかもそうすることでスウェーデン語が話せる。スウェーデンを去るまでに出来るだけ、可能な限り、徹底的に喋ろうと努めているヒロであった。まるでこのスウェーデンに自分の存在を残そうとするかのようであった。 多くの人たちはヒロがスウェーデン語を喋るということに意外であるといった風な表情を見せる。驚いているのだ。「あなた誰なの?」といったような無言の質問をしているかのようだ。
そんな質問を見届けたヒロはちょっと皮肉を込めて質問する。 「私はスウェーデン語を喋ってはいけないのでしょうか?」
「わたしはスウェーデンが好きなんです」と続けては言わなかった。
「あの人たちが好きなんです」とも言わなかった。
あの人たちはいまどうしているだろう。ヒロのことを噂しているだろうか。
お世辞かもしれないが、ヒロのスウェーデン語を褒める人もいる。多くは好意的だ。
「当地にはどのくらいの期間滞在していましたか?」
「云々、云々」
「そんなに短い期間で、そんなに喋ることが出来るのですか!」
ヒロは毎日、集中的にスウェーデン語を理解しようと緊張していた。喋れるようにと毎日気を使っていた。そうした努力ももう直ぐ終わりだ。約4ヶ月近くのスウェーデン滞在も
あと二三日も経つと過去形となるのだ。
スウェーデンの方を振り返りながら、そう言う。その日が間近に迫っている。
スウェーデンに住んだ。
”Hejdå,
Sverige!”
さようなら、スウェーデン!
そう言う日もすぐ間近に迫っている。
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